側にいるなら【いつ純】



※ワズエンパロディ。
お題「地獄でも君がいるなら天国」


 
 
眠っている純哉の前髪を撫でながら隣に座る。時折苦しそうな表情を見せ、魘されているが目を覚ますことはない。光の民から闇の民へとなることはかなりの痛みを伴う。ここ数日ずっとこの状態だ。いつきは薄暗がりの部屋で吹き出す汗を懸命に拭いてお世話をする。
「ごめん、純哉くん。こんなつもりじゃなかったんです」
箱庭と呼ばれたあの場所にいる光の民はみんな笑顔で幸福に思えたが、箱庭を出るときにどういう運命を辿るかを知っているため、オレにはその姿が痛々しい。けれどどうすることも出来なかった。それが理だったから。
「許さなくてもいいです。ーーオレが耐えられないから」
オレは手に持っていた青い小瓶に入った液体を口に含んだ。勇人から貰ったこの小瓶は純哉の痛みを取り除く効果があると言われた。信じたくもなかったが、縋るしかなかった。一刻も早く痛みを取り除いてあげたかった。
眠っている純哉に口移しで液体を飲ませた。ごくんという音が聞こえて少し安心する。
純哉の苦しそうな表情は少し和らいだ。目が覚めたら全てのことを忘れてしまうと勇人は言っていた。痛みを取り除くにはこれしかないとも。
それはオレとの記憶も消えてしまうということだ。
「目が覚めたらが一番に教えてあげますよ、オレのことを……」
薄暗い部屋に差し込むのは月の光。その光に半分残しておいた小瓶の中に入る液体を揺らして口に入れた。箱庭を出た世界は地獄と絶望したかもしれない。きっとそんなことも忘れる。
堕ちていくなら一緒に。
ぐらっと強烈なめまいと共に純哉にもたれかけるように眠った。




20210629





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