泣いた理由【創作BL】◆



  
保育園に入る前の話だ。アキラは転んでも泣くことがなかったから安心していた。自分より1つ下の幼馴染は泣きそうになっても口をへの字にして耐えるのだ。思い切って泣いても何も恥ずかしいことなんてないのになとオレは思っていた。
 
「どうしてショウが泣いているの」
「お前が泣かないからだ、お前の代わりに泣いてんだ」
「だって泣いても仕方ないし……それにさ、新しいものを手に入れたんだから」
ニコニコとアキラは笑っているが、一人で泣いたのだろう涙の跡がしっかりとある。オレはそこに手を触れてなぞると、アキラはその手に触れた。
「これからはショウは本当のお兄さんになるんだね。僕、嬉しいよ」
嬉しいよと言いながら涙が落ちた。一つ落ちるとまた一つ落ちて、アキラはあれあれ、と自分の手で顔を隠した。
「ほん、と、に……うれしいの、に……」
「オレだって嬉しいさ、泣けるほどに」
そう言ってオレが抱き締めると、アキラは声を上げて泣き出して止まらなくなった。
ついこの前まで幼馴染だったのに、ついこの間長年の想いがもしかしたら伝わるのかもしれないと思ったのに、全てひっくり返った。
黒い喪服はどこまでも気持ちを落としていき、線香の匂いは全く持って悲しさしか呼び寄せない。2つ並んだ黒の額縁はオレたちをどう思っているのだろうか。
 
「御免な……」
涙が止まらなくなっている新しく出来た弟にかける言葉は今はまだそれしか見つからなかった。



20210623





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