見えていない世界【蘭拓←マサ】☆リク





こういうときに部室棟の鍵を返す当番が回ってきて、はあと大きなため息をついて狩屋は、他の部屋の窓が閉まっているかを確かめていた。最後のミーティングルームには例の二人が残っていた。二人をみるとキスしたところを思い出すし正直、早く帰りたい。
「神童、鍵当番の狩屋が帰れなくなってるから。次の練習メニュー決めるのは明日にしようぜ」
狩屋のことに気付いた霧野がいうとホワイトボードで考え込んでいた神童はようやく動き出した。
荷物を持って3人とも部室棟を出て、狩屋が鍵をかけると神童が手を差し出した。
「狩屋悪かったな、時間を見てなかった。代わりにオレが鍵を返してくるよ」
「はあまあ……それならお言葉に甘えて」
狩屋は鍵を渡すと、神童は鍵を持ってタッタッと鍵を返しに校舎へと駆けていく。同じように跡を追いかけていくかと思った隣にいるセンパイをちらりとみた。
「霧野センパイはついていかないんですか?どうせ一緒に帰るんでしょう?」
「んーー鍵を返す職員室まで遠いしな。ここで待ってるよ。狩屋は帰っていいぞ」
ええもちろん、帰りますよとその場を去ろうとしてピタッと止まった。先日の光景が頭をよぎった。
「ーーセンパイ、時と場所を選んで下さいね」
「?何の話だ」
そうなるよな。でも、もう見たくないから。ああ思い出すから胸が痛くて仕方ない。
「……なんでもないですよ。あーあ、神童センパイと仲が良くて羨ましい限りです」
「狩屋も十分仲いいと思うぞ」
そういうことじゃない!と突っ込みたくなるが、センパイは本当に阿呆だ。
「オレは……別に幼馴染み、親友だからそう見えるだけかもしれない。他の奴らと大差ないさ」
「大差ない?そんなわけーーーー」
「あるさ、オレだけがアイツの特別じゃないから」

特別じゃないならなんで二人はキスをしたんだ。あんな、あんなにこっちまで赤くなってしまう口づけを交わして、オレが二人はそういう特別な関係なんだと打ちのめされて……しんどくなっている。
 
霧野!と呼ぶ声がする。神童が戻ってきたのだ。呼ばれた霧野は狩屋も行くぞといって歩き出した。オレはそれの後ろをついていく。
「オレはきっとただ神童の隣に立つだけだ。だがそれは誰でもいいーーお前でもいいんだ」
ボソリと小さな声でいった言葉を狩屋は聞こえないふりをした。
誰でもいいなんて思っているわけない。暗がりに見つけたキスする二人はオレにとっては眩しくて、一歩もその中に入れずに回れ右をして逃げたのだ。
誰にも奪えなくて入れない二人の世界はちゃんとあるのだ。その世界の当事者たちは未だに気付いていない。



20210614




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