何個目かの星は墜落する/雨上がれ【基緑】



※お題「君の数えた星を探す」





数えた星は何個目だろう。7つ目までは数えたのは覚えているが途中から分からなくなった。
ぼやけた視界のせいで星が見えなくなったからだ。
 
***

 
ヒロトも同じ想いだろう。勝手な妄想は自分を支配して、口から出てしまったのだ。吐き出された妄想の塊をヒロトは受け取らずにごめんねと返したのだ。
「緑川をそういう風には見ていないよ」
返された妄想の塊は真ん中からナイフでざっくりと割られて、ピンクだったり紫だったりした液体が溢れて足元に広がっていった。
飛び散った塊の残骸を顔につけながらも、緑川はオレこそごめんと謝ってその場を抜け出した。
不快な思いに足を取られそうになりながらも緑川は走って、走って、疲れてとぼとぼと歩いていた。
自惚れていたのだ。いつもオレに優しいヒロトはオレのことが好きだって。だが優しいなんて誰にでもそうじゃないか、どこからそんな自分に優しいだなんて思っていたのだろう。
赤く染まった道は黒く伸びたオレの影がよく映える。
オレはヒロトのことが好きだ。そう思ったら止まらなくて、好きな気持ちはヒロトの優しさを栄養によく育ったのだ。
だから枝から折れて、ヒロトの前に落ちてしまった。
ついさっきまで見えていた赤い道はなくなって、影も薄くなっていた。
「ヒロト……」
空を見上げると一番星が目についた。一番星を見つけたかと思えば、また1つ、また1つと見つかっていく。
緑川は数えながら、幼い頃もこうしてヒロトと帰り道を歩いたことがふと浮かんだ。
一緒に数えている内に家についていたから驚いたものだ。あれは数えながらもヒロトが手を繋いで家までちゃんと導いてくれたから。
 
「ーーああもう、見えないよ……」
 
家にも辿り着けそうにないなあと目を擦って払ったのだ。 





20210613




※お題「もう雨上がってるよ」





告白された時に何かが違うと感じた。彼は自分が言った言葉に真っ赤になって訂正しかけて息を飲み込んだ。訂正をしなかった。彼は向き合うことにしたのだ。強くて眩しくて……だからつい言ってしまったのだ。
「ごめん、緑川のことはそういう風にはみていない」
オレが守らなきゃいけない対象としてみていた。ちゃんと守ってあげられなかったくせに、そんな風に自分より弱いものとして思ってる。そんな自分がいたんだなあと出てしまった言葉は間違いだ。
去っていく緑川の後を追うことが出来なかった。
なんて声をかけたらいいか、分からなかった。
オレも緑川のこと好きだよ?
嬉しいな、ありがとう?
本当に自分は緑川と同じ想いなのか自信がなかった。緑川のことは好きだし嫌われたくない。性的なこともしたいと思っている。けれど、それが相手と同じ《好き》かは分からない。
その日、緑川は夜遅くに帰ってきた。みんな心配をしたし、オレも心配して声をかけたが大丈夫だよと返された。大丈夫な顔してないからフォローすべきなのに、出来なかった。オレはまた緑川を守ることもなくただ傷付けたのだ。


 
昼間でも明かりをつけないといけない薄暗い部屋で、何もつけないままただ雨の音だけがしとしとと時折耳に入る。梅雨入りしても暑さは緩まずに身体の所々から汗が吹き出していく。ぬるりと緑川の胸を指を滑らせた。汗がじんわりと手に貼り付く。
口づけと口づけの間に水を飲んでも足りないくらい飢えて干上がりそうだ。
「好きだよ、緑川」
「ど、どうして……」
「これが一番伝わるかなあって。お前の気持ちに応えるためのオレの気持ち」
両手をベッドの端と端に縛りつけているから緑川が走り去ることもない。一対一でじっくり向き合える。
「わ、わかんな……いヒロトのきもち……」
「うんそうだね。だからゆっくり教えるね」
ヒロトは緑川の頬を撫でる。涙か汗かも分からないくらい濡れていた。

ーー多分これくらいしないとお前への気持ちなんて届かない気がするんだ。

暗かった窓の外が明るくなる頃、じっとりと濡れた緑川の髪を撫でた。彼は疲れ果てて眠ったままだ。ごめんねと言いたかったが、これじゃあ言っても謝ったことにならない。

「もう雨が上がってるよ」
 
ヒロトはタオルケットを緑川にかけて扇風機を回して部屋を出ていった。



20210617




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