ずっとの距離【蘭拓】



※付き合ってない
お題「届く所にいてよ」




 
いつかは離れてしまうのだろうかと神童が悲しそうに言っていたから、幼いながらにオレは指切りをしたのだ。
「ずっと、一緒にオレはいる。神童の近くにいる!」
笑って交わした約束をオレは守るつもりでいた。

「留学……するのか」
「ああ……まだ決めていない。だが神童家のためにも今のうちに広い世界をみるのもいいんじゃないかと思ってさ。サッカーを通して、いろんな場所や人に会って、ずっと同じ場所にいるんじゃなくて他の場所で学ぶことも必要なんじゃないかって……そんな時に留学の話が来ただけさ」
決めていないと言いながらも、話すことは行きたいという思いが伝わってくる。雨が降りそうで降ってこない曇り空の下、何を眺めるわけもなく窓を開けて二人で話していた。
「ーー行くといいよ。神童ならもっと、すごいところまで行くんじゃないか?」
背中を押すのが親友だろう。自分に言い聞かせながら窓枠に置いた手に力が入る。神童はうーんと唸っている。何を迷っているのだろうか?神童が自分で言った通り、魅力的な誘いだと思う。
「霧野もそう思うよな……ただそうすると離れてしまうじゃないか」
「? 何が?」
霧野が首を傾げると神童は指差した。指差した先にはオレがいる。
「霧野が近くにいないと想像すると少し躊躇うよ」
「まさか、そんなわけないだろ?今までだって少し離れるくらいあったし……」
オレは選ばれずに神童だけが選ばれる。そんなこと、何度もあって思い知った。オレは、ずっと神童の近くにいることができる人間ではないのだ。だかそれでも出来る限りはと、今も隣にいる。
神童は複雑そうな顔をして大きなため息を吐いた。
「そうだよな……留学で離れたくらいで寂しがったらダメだよな」
「う、うん?」
なんだか微妙に納得しきれてない神童がよく分からなかった。
寂しいからオレと離れたくない。だから留学の話を受けるべきか悩んでいる。ということはーーーー。
ぽつりと窓の外に出ていた手に雨粒が落ちた。降ってきたと思ったらどんどんと雨粒が増えていくので慌てて二人は窓を閉めた。
「明日も曇り時々雨らしいよ」
そっかと霧野は適当に返しながら結論が頭の中で全く晴れなかった。



20210612




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