渦は明日、晴れとなる【蘭拓】





嘘をついているわけではないと言い聞かせて、自分を誤魔化している。
「神童、今日は……」
「霧野、悪い。今日も一緒に帰れそうにない」
テスト期間で部活が休みになる時は、今まで約束なくとも一緒に帰っていた。それは今までの習慣だったし、神童の家の方もオレが一緒なら歩きで帰るのも大丈夫だろうという安心感もあったと思う。
しかし今回ばかりは違った。神童は用事があるから先に帰ってくれか、用があるから先に帰るのどちらかで一緒に帰ることができない。用事のことはオレには教えてくれず、そのことを訊くと困った顔をされるので何も分からなかった。
幼馴染みだからなんでも知っていいわけではないが、胸の奥が苦しくなる。オレに言えない用事ってなんだろうか。
「そりゃあ……神童センパイはモテるから実は彼女が出来てたりして」
「えっ!?あ!?狩屋!?どうしてここに!?」
びっくりして大声を上げてしまい、周りにいた他の生徒が一斉にオレたちを見た。そこで周りを見て狩屋がいた理由にようやく気付いた。
「どうしてって……ここ1年生の下駄箱ですよ?大丈夫ですか」
狩屋はニヤケ顔を抑えながら……いや抑えきれない顔で教えてくれた。霧野は恥ずかしくて、そうだな!と言い投げてバッと2年生の下駄箱へと逃げた。

「なにやってんだが……オレ」
霧野は自分の下駄箱に頭をつけた。恥ずかしさでまだ顔が熱い。
神童に彼女が出来たらできたで教えてくれてもいいだろう。幼馴染みで親友じゃないのかオレたちは。
はあと大きなため息をついて下駄箱から外靴を取り出した。
モヤモヤとした気持ちは渦を巻き、腹の底で沼になりそうだ。けれど明日こそ神童と帰れたらと願ってしまう。
ーーオレの誕生日なんだし。

明日は一緒に帰れることを願って霧野は一人昇降口を出ていった。
 


20210608




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