笑顔は傷を隠してくれる【照吹】



※付き合って別れた
お題「君を傷付けるやつは許さない」








走り去った乗らなくなった列車に別れを告げて、改札を通り抜けて駅を出た。これからきっと何度も一人で通う新しい駅だ。
人通りの少ない街灯の明かりが随分と弱い道を歩いていく。別れたというのに未練が残っていて、それは相手も同じなんじゃないかと疑ってしまう。
線路が上を行く小さなトンネルはとても暗く、僅か数メートルしかないのに本当に今見えている光は本物かと疑ってしまう。
「怖いなら走ってしまえばいいよ。君は脚が速いのだから」
いつかの夜に明かした僕の幼き頃のトラウマに君はそう答えたね。グッと足に力を込めて一気に走っていった。トンネルの先の光は本物で!抜けた先は一気に明るくなり静まり返っていた周りの喧騒もよく耳に入ってきた。
「……ホテルからの近道とはいえ、この道はやめた方がいいな」
吹雪はトンネルの方を振り返ると、やっぱり冷たい空気を発しているかのように恐ろしく感じた。
君も何度か掛け合うたびに冷たくて寂しく感じて、僕は関係を取り戻すことを諦めてしまった。
ーー前に言ってたね、『君を傷付ける奴は許さない』なんて。
 
「今、痛くて仕方ない傷は君がつけたんだよ」

なんて言えるわけがないのだ。傷を癒やしたい、治したいと思った君のことを考えるとそんなことは言っても仕方ない。
だって僕だってね。

吹雪は下宿しているホテルへと足を進めていった。貼り付いてしまった笑顔は僕の傷に誰も気付かないだろう。
ーー僕だって、『アフロディくんを傷付けたくないし、守りたいんだ』




20210531





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