呼ぶ廊下に拒否をする【基緑】



※付き合ってないのにキスしたらしい。
お題「他人と話さないで」




隠すのが下手だからと言い訳してヒロトからのキスを受け入れた。たった一度だけのキスはオレをずっと惑わしているのに本人は何もなかったように接してくる。
オレだけなのだろうか、こんなにもイライラが募って仕方ないのは。
ヒロトは楽しそうにクラスメイトと話していた。人を惹きつけるような外見や物腰の柔らかい喋り方に誰もが近寄っていく。
ああもう!みたくないな!と緑川は席を立って教室を出た。不機嫌な顔で廊下を歩いていると、涼野に呼び止められた。
「なーに?今少し機嫌悪いんだけど」
「それは見れば分かる。なにがあった?」
あまり他人に興味のない涼野が分かるほど顔に出てたかと恥ずかしくなった。近くの廊下の窓を開けて中庭を眺めた。
「なーんにもない。ただオレたちはいろいろあったはずなのにこうして平和に普通の学校で過ごしていて違和感あるなあと思うだけ」
「ククッ違和感か……」
「なにがおかしいの?」
いやといって涼野も緑川の隣の窓を開けて同じように眺めた。中庭は数名が昼食を食べたり話していたりしているが廊下にいるときの雑音よりかは静かだ。
「今までの私たちが特殊なケースだったんだよ。父さんのためを信じて疑わなかった、それが全てだと思っていたから。エイリア時代に全国各地の同世代と関わっていろいろ知った。違和感はそこで覚えるべきだったんだ。……ヒロトのように」
涼野は何かに気づいて窓を閉めて、はあと面倒くさそうなため息を出した。
「え、ヒロトは何を違和感だと……」
「それは本人にきいてみなよ」
緑川の後ろを指差して涼野は去っていった。振り返ると、真後ろにヒロトが立っていた。ーー本当に真後ろにいるのに全然気付かなくてビックリして後ろによろけそうになるのをヒロトはしっかりと背中に手を回して支えた。
「大丈夫?」
「や、大丈夫じゃなくて……そんな真後ろに立たないでよ」
ぐいとヒロトの胸元を押して距離を離した。ヒロトは背中に回していた手をパッと離して、何故かすごく残念そうな顔をする。
その顔にイライラより悲しさが上回って、ズキリと胸が傷んだ。と、ヒロトー!と廊下の奥から声がした。きっと先程のクラスメイトだろう。
「ほら、呼ばれてるよ」
緑川は視線を声のする方へと逸したが、ヒロトは逸らさずに緑川を見つめている。
「な、なに……」
「緑川はオレがあっちに行ってもいいの」
呼ぶ声はだんだんと近づいてくる。ヒロトの考えていることが分からない。呼ばれてるなら行けばいい。ーー行けばいいのに。
あの日にした薄暗い相手の顔だけ見えるキスがふっと頭に浮かんだ。
「行かないでほしい……」
ぽつりと出た言葉にあっ!と緑川は口を手で隠した。ヒロトは優しく微笑んでそうかといって、緑川の手を取った。
「じゃあもう少し緑川といたいからちょっと走ろうね」
近づいてきたクラスメイトがヒロトの肩に手をかけようとして、ヒロトはさらりとよけてごめんと謝った。
「後にして!」
そういった爽やかな顔はオレを引っ張って何処へ行くのやら。まあでも。
ニヤケが止まらない顔は前を行くヒロトに見られなくて良かったと緑川は思うのだった。



20210530





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