律儀な繋がり【大人照吹】




「終電までには返すから」
と律儀な彼は僕の腕を引いて抱きしめた。暗がりの公園、誰が見ているかも分からないのに口づけを交わす。熱を帯びた視線は僕を食べたそうにして何度も唇を重ねた。色づく声を小さくしなくちゃと僕は必死で、彼は自分の長いコートを広げて僕の存在を隠した。
「ん、はあはあ……て、てるみく……」
食べてほしいと願ったのは僕からだった。彼の鎖骨へと手が伸びてビクッと反応するのが可愛くてそこに印をつける。
「……悪戯がすぎるんじゃないか?」
自分が甘く沈みそうな熱を浴びせたくせに、おかしいでしょと僕は自分の鎖骨をトントンと指差した。
「なら照美くんも付けてよ。今日を忘れないために」
はあとため息をこぼしてちらりと公園の時計をみて隠すために広げていたコートの端を離した。
北海道と違って明るすぎて星が見えない夜空に、彼は後光が射すかのようにいつも輝いてみえる。輝きながらも今は少し表情が曇りがちだ。
「間に合わなくなるよ、シンデレラ」
僕も時計を見て首を横に振ったが、彼は僕の手を取り駅の方へと歩き始めた。
「シンデレラじゃ、ないから!いい!……ねえ!」
僕は止めようとしたが力は彼の方が強い。公園を出た直後に彼は振り返って手を離した。
「僕が君を帰らせたいんだ。魔法が溶けてしまう前に」
「どういう……」
「今日のことを忘れてもいい。けれど、僕を忘れないでいて。君を大切に思う僕は確かにいることを」
僕は彼の手を再び繋ごうとしたが、さらりとかわされてまた彼は前を向いて歩き出した。
「……僕らはそういう関係じゃない。はやくしないと終電乗り遅れてしまうよ」
「ーーッ……うん」
彼の後ろに僕はついていった。
僕と彼は繋がれないものはなんだろうか。
駅につくと終電を伝えるアナウンスが流れ始めている。彼と別れの挨拶もそぞろに僕は走り出した。
車両に乗って外の風景をみながらふと鎖骨を指でなぞるがそこには熱がない。
綺麗ななにも跡がない鎖骨じゃ忘れてしまうよと発車のベルが鳴り響いた。




20210523





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