ミストレには癖があった。本人が自覚してるかどうかは分からないが、自分で対処出来ない感情をオレの部屋で爆発させる。
一応聞き役としてオレのとこにくるのだろうが、一人で勝手に不満を撒き散らし、オレに当たる。
バタップを通じて仲良くなってからこれが多い。
そしてバタップ関連の愚痴が多いのも確か。
「チクショー!!なんで勝てないんだ!」
ミストレはオレの部屋にくるなり壁を叩き怒鳴った。
エスカバはちょうど夕飯後で気持ちよく寝れる心地だったのに、ミストレの盛大な登場で一気に目が覚めた。
「今回もまたバタップか…」
はぁ…と溜め息がこぼれる。
「そうだよ!またバタップが一番だ!クソ!」
ソファに座り、持ってきた炭酸ジュースをゴクリゴクリと飲んでいく。
エスカバはその向かいに座り、聞く態勢に入った。
一気に飲み干した炭酸ジュースをダンッと机に置いてオレを睨み付けた。
「お前は悔しくないのか!いつもいつも一位取られてよ!どんなに頑張ってもアイツを追い越せないし、何が『二位じゃダメなのか?』だ。どこぞの議員じゃあるまいし、オレの気持ちなんか知らないでさ!」
「いつものことじゃん。んなこと気にしていたら、キリがないぜ」
まあまあと落ち着かせようと手振りで表すが意味がない。
むしろヒートアップし、ソファを殴り、手当たり次第にオレに投げ付けては罵声を吐きようやく落ち着いてきた。
避けたり壊しそうな物を守ったり、エスカバ自身もボロボロだ。
シーンとさっきまでの激情の音がなくなり、電気も途中消えてしまったのに気付いた(投げた物が当たったようだ)。
薄暗い部屋の中、目が慣れるまでそう時間がかからなかった。見るとミストレは隅っこでうずくまり、泣いていた。
ミストレにとって泣くほど2位というのが悔しい。彼のポリシーがどうしても許してくれない。だから、心を正常に戻すために暴れるのかもしれない。
エスカバが近付くと顔を反対に向けた。
「プライド高いのもいい加減にしろよ、いつもいつも傷付いちゃお前も辛いだろ」
ミストレは何も答えなかった。
また沈黙の空気が流れる。
とりあえずエスカバはミストレはほっとき部屋を片付け始めた。
床にある物を拾い、机の位置を直した。
「ねぇ…」
ミストレが口を開いた。
「ん、なんだ?」
持っていた空き缶をゴミ箱に入れた。
「どうしてお前はこんなにしてもいつも怒らないんだ」
少しガラガラな声だった。
「自覚あるならやめろよ。そりゃ怒りたいけどな…けど…そしたらもっと部屋散らかるだろ」
「ふっ…そうだな」
よし!とミストレは立ち上がりドアの方に歩きだした。
「ありがとうな、んじゃまた明日」
ミストレが元気そうにドアを閉めていった。
「本当はいろんな感情をオレにぶつけてくるアイツを誰にも見せたくなかったり」
エスカバが呟くとまたドアが開き、バタバタとミストレが入ってきた。
「シールシールっと…」
ゴミ箱を漁り、空き缶に付いてるシールをはがした。どうやらシールを集めていて取りにきたようだ。
今の独り言きかれてないよな!?と動揺しているエスカバに、おいうちをかけるかのごとくミストレがグイッとエスカバの耳を引っ張った。
「お前のそういうとこ好きだよ」
美しくも嫌な、ニヤリとした顔で言った。
「へ、今なんて」
聞き返す前にミストレは出ていった。
足元にはシールを取った空き缶だけが転がっていた。
20110228
prev next