お前だから/埃は落とすもの【創作BL】◆



「やっぱりここか」
「ーー!なんで分かったの……」
人があまり通らない川辺で膝を抱えて空を見ていたら馴染みのある声が降ってきた。
「そりゃあお前との付き合いは長いからさ、朝見かけたときに元気なかったし」
彼はまだ新しく汚れもないスーツのまま僕の隣へと座った。1年前までは同じ制服を着て、同じ学校に通っていたはずなのに着ている服が違うだけどうしてこんなにも年齢の差を感じてしまうのだろう。たった1歳しか違わない幼馴染みの彼が、グンと大人に見える。染めたての金髪が月に照らされて優しく揺れている。すぐ届く距離で一緒に過ごしてきたというのに年齢を重ねるにつれて、一緒にいたいという気持ちは不思議と強くなる。
「……どうせカノジョとのこと悩んでいるんだろ」
「別にそうじゃない」
「またまたーー!」
頭を力任せにわしゃわしゃと撫でられてムーっと膨れる。カノジョとは彼が勝手にそう思っているだけのクラスの委員長のことだ。たまたま委員長が泣いていて慰めているところを目撃されてからずっと勘違いしている。
別に付き合ってもいない、ただの友達なのだ。けれどなんとなく彼に伝えそびえている。
「お前のそういう素直じゃないところって可愛いのにな」
撫で回してた手を止めて見つめてくる。途端に顔が熱くなってプイッとそっぽを向いた。
「か、可愛いっていうなよ……一応男だぞ僕は」
「いやお前は可愛いやつだよ、だからオレはこうしてここに来ちゃうんだよなあ……」
彼はハアと大きなため息をついた。どういうことだろうかと思いながらも、僕は彼の頭をそっと胸に引き寄せた。
ドクンと大きな音が1つ伝わった。
「……僕もお前を励ましたいよ、いつもありがとうね」
ドクンドクンとこの音は自分の音だ。彼はなにか言いかけたのか息を飲み込んで、僕の制服の腕をちょんと掴んだ。
「ーーおう」


20210515




弟のように可愛がっていたつもりでも、いつからか弟には見えなくなっていた。ずっと一緒にいられたらいいのになと思うほど、抱きしめた腕を解きたくなくなるほど、気持ちはどんどんそっちへと深まっていく。
「好きだな、お前のこと」
「え、う、うん?ありがとう?」
つい先日にポロリと出た告白もまるでホコリを取ってくれたお礼のように感謝された。ありがとうってなんだ。そんな言葉がほしいわけじゃない。
なのに、そこから前へはどうしても踏み出せなかった。
自分が高校を卒業する前にどうやら彼女が出来たのか、時々放課後二人で教室にいたり一緒に帰ってもいるみたいだ。
そうだよなと一人で帰る道は隣が寂しかった。きっとこれが当たり前になっていく。卒業したらオレは社会人として働くし、あいつはまだ高校生活を楽しむ。一緒に過ごす時間はグッと減って、価値観もどんどん変わって疎遠になって、数年燻る想いは胸の奥の中で燃えカスになるだろう。
「イヤだなあそれ」
「ん?なにが?……もしかして働くこと?」
いつの間にか隣にお前がきて手に息を吹きかけている。3月の終わり、まだ朝晩は氷点下ラインの気温だ。日中は温かいからと手袋を忘れたのだろう。
「あれ?カノジョと一緒じゃなかったの?」
「カノジョじゃないって言ってるだろ……学校の帰りに寂しそうに歩くお前見かけたから走ってきたけど、身体温まらないな……」
「じゃあこうするか!」
と手を取って自分の上着に手を突っ込ませた。
「わわ!あ、歩きにくいじゃん?!」
「えーそこなの?じゃあ片方は手袋貸すから、二人三脚みたいにして走ろう」
はいこれと手袋を渡して、素直に言うとおりにしていく。少しは抵抗しなよと思いながらも寒いからなのか耳が赤いなと目に留まる。触れたくなる衝動をぐっと抑えて冷たい手をポケットのギュッと握った。
「ねえ?」
「ん、やっぱこれは高校生にもなって恥ずかしいか」
「いやそうじゃなくて、このままで……走らなくていいから何が嫌なのか教えて?」
俯いて深刻そうな顔をした。そんな顔させてたくなかったなと反省しながらもオレは走らないで歩き出した。
「働くことは嫌じゃないよ。むしろ自分でお金稼げるからいい。だけどさ、お前とこうして話せる時間が減るのは嫌だなって……。ごめん、なんかしょうもない事思ってしまってかっこ悪いな」
オレは頭を掻いた。近所の家から焼き魚の香ばしい匂いがする。もう日は沈んで辺りは電灯と家々の光が周りを照らしている。俯いた彼は何も言わなかった。でも深刻そうな顔はしておらず、少し嬉しそうな様子が見られる。
そのまま無言でいると家の前に着いてしまった。じゃあと名残惜しくも手を離して家の門を開けようとすると、俯いていた彼は顔を上げて口を開いた。
「ーーだ、大丈夫だよ!僕はお前のこと好きだし大事だからさ……話せる時間が減っても、話せる時がより大事になるから!」
「ーーーーなんだよそれ」
お前の方がかっこいい告白の仕方するのはズルいな。きっとわかってないのだろう?好きだとか大事だとか、お前が言うと綺麗に聞こえて本当にズルい。オレなんて埃のような軽さだったのに。
ぐちゃぐちゃと彼の頭を思いっきり撫で回した。やめてと言われても止められない。これが精一杯のお前についた埃を落とす方法だから。
「ありがとう、大事に思ってくれて」
オレは情けなさそうに笑うしかなかった。




20210516





prev next








×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -