隣【蘭マサ】



※付き合っている





信じてくれないからキスをする。お前のこと解りたいと思うが言っても態度で示しても信じてくれないから首の筋を指で滑らせて赤くなる耳に安心する。
「うん」と頷いたことを絶対嘘にしないでほしい。オレはお前が好きで、お前もオレが好きで唇と唇を合わせるのが冷たい氷ではなくお前の心に届いてくれ。
「隣にいてもいいか?」
「いいですけど、誰かが来るならオレはここから離れますから」
そんな素っ気ないことを言わないでくれ。本当はずっといてほしいと思っているだろうに。
早朝の駅のホームはほとんど人がおらず、はっきりとした線もない光がまだオレは眠っているんじゃないだろうかと考えてしまう。
「……眠いなら寝ていいですよ、始発来るまであと30分はかかると思いますし」
「うん、悪い……そうさせてもらう」
霧野はゆっくりと頭を狩屋の方に傾けて、肩が当たっている方の手を絡ませた。
「せ、センパイ!ここ、駅!」
「んーー大丈夫だろ、気になるならカバンで前を隠せ。なにか言われそうなら寝惚けたオレがしたことにしろ」
聞こえてなかった狩屋の心臓の音が途端に大きくなって笑いそうになる。口ではそうですかと仕方ないみたいな声を出すくせに。
「あー狩屋のこと好きだなあ」
「はいはい、分かったから黙って寝ててください」
伝わる振動が寝かせてくれないんだと言いたくなったが、これ以上おちょくれば拗ねてどこかにいってしまうだろう。
オレがにぎにぎと手に力を入れるたびに漏れる声が耳元を熱くさせる。本人は我慢しているつもりだろうが、我慢する方が余計興奮するっていい加減分かってほしいな。
「せ、センパイ……」
オレは寝たふりをする。朝の鳥の囀りやコツンコツンと横切るサラリーマン、オレらと同じく朝練なのか反対側のホームからはおはようと元気の良い挨拶する声、ああ幸せだ。狩屋も感じてほしいんだ。
「……オレの隣はそんなに嫌か?」
目を瞑ったまま小さく呟いた。情けないことにオレだって自信がない。お前のこと解りたいのに解ってやれないから困らせてしまうから。
「ーーイヤなら肩も手も触らせません。オレそこまでセンパイのように人がいいわけじゃないんで」
握り返した手は力がこもっている。
そうかと笑みが溢れながらこの温かな日差しを愛した。




20210510




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