未来電話【創作男女】



ワンコール鳴り終わる前にきてほしいし、受話器を他の家族に取られるなんて以ての外なの。
「ねえ?分かってるの?」
電話の向こう側だと表情も分からないし、彼のことを知るには耳が頼りだ。
「いやさ、あのこれオレのスマホだから誰かが電話を取るなんて有り得ないから。君の生きている時代ならそうかもしれないけれど、オレの時代は親さえももう経験してないから」
ため息混じりに聞こえてきた声は少しイラついているのが分かった。
そんなの知らないよ、私はこの時間にしか貴方と話せないのに。
くるくると受話器コードを指で絡ませたり解いたりする。彼の時代ではこういうこともしないんだろう。
冷たい暗がりの廊下で他の家族に見つからないようにと気をつけながら、足の指の感覚が忘れることさえも知らない。
「ーーねえ、絶対今でも私のこと好きだよね?」
泣きそうになりながらも訴えるとシンとしている廊下によく響いた。
「ーーああ、今でも好きだよ。愛しているよ、心配しないで」
その言葉を聞いてホッとした。それならいいんだ、今は冷たくてもいつかは彼に会えるから。
「絶対に見つけてね、私を隣に置いてね。私が貴方の名前を呼んだらさーー隣にきて手を繋いで」
「分かった、約束するよ。……そろそろ時間だな、じゃあ」
そういって電話はツーツーと悲しい音をした。私も受話器を置いて冷たい手を擦り合わせた。
「ほんとは今すぐにでも会いたいよ」
まだ生まれてもない彼のことが本当に遠くて、彼の側にいるであろう未来の私が悪くて仕方ない。

電話の向こうに未来の旦那さんがいるなんて悪い冗談だわとパタパタと自分の部屋へと戻っていった。





20210508




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