ねえ隣【蘭拓】



※付き合ってない高3設定



 
同じ大学を受験するときいたとき正直嬉しかった。高校は別になって今まですぐ隣で感じていた熱がなくなり、それでも慣れるだろうと思っていた。慣れれば問題ない違和感だと。
けれど少しずつ違和感は熱のせいではないと気づいた。霧野が隣にいないから今まであった温かみがなくて寂しかったのではない。
オレの知らない場所で霧野が同じ時を過ごしている。知らない経験を霧野は誰かとしているかもしれない。想像でしかないものが自分を苦しめていく。
相殺するように自分も忙しく動いた。結果として大学は推薦でいけることになった。
フッと息を抜いたら体調を崩して一時的に寮から離れて実家で少し療養することになった。
駆けつけてきてくれた霧野がオレに進路の話をしたのだ。
「今回は大学でやることがあるのか?」
高校を決めるときに、やることがないからオレと同じ高校には行かないといっていた。それからずっと気になっていた。
「なんか、オレの父親みたいなこと言うな……」
「いや、真剣に訊いているのだが」
霧野がオレの額に手を当てた。少し熱いから寝ていていいぞとゆっくりとオレを寝かしつける。
「そうだな、やることはあるよ。前のようにお前と一緒がいいからその大学を受けるんじゃない」
髪を優しく撫でる手が優しい。語りかける声音はもっと優しいし、ああ同じようにあのときの会話覚えていたんだと毛布を持つ手を握りしめた。
「あのな、神童。オレは小さい頃からお前と一緒だった。お前と共にずっと過ごしてきた。そして、高校では互いに違う時間を過ごすようになった。離れているのにな、会う時間が少ないのにな、今までよりもずっとお前のことを考えてしまうんだ」
身体が熱くなっていくのは熱のせいだろうか、それとも霧野の言葉に反応して泣きそうになっているから?
「オレのやりたいことはお前のサポートだ。そのためにお前と同じ目線に立っていたい。ーーこれからもずっとお前の隣にいたい」
流れていく一粒を霧野が指で掬って舐めた。それから穏やかに笑う。ズルいじゃないか。人が弱っているときに欲しい言葉をくれるなんて。
オレだって、オレだってーー!
「お、オレだってずっと一緒にいた……」
目をひんやりとした手で覆いかぶされてた。わけわからないでいると、霧野の声が降り注ぐ。
「今はゆっくり休んでくれ。ごめんな、こんな時に話をして……」
もう一度ごめんとオレの身体に落ちた。
小さな冷たくて重くて泣きたかったのに、唇も目も開かずに眠っていった。
 


「ごめんな、神童。オレはまだその言葉の続きを受け取る自信はないんだ」
眠った神童をみながら霧野は自分の手を強く握った。




20210504




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