出会えた風【天フェイ】




出会ってしまったものを忘れることはできないだろう。タイムトラベルの時は自分たちの記憶を消すのではなく、その時代に出会ってしまった人たちの記憶を消す。本来会うべき事象ではないからだ。でもタイムトラベルしたボクらの記憶は消すことはない。何らかの問題があって消すこともあるかもしれないが、大体は記憶は残ったままだ。
「まあ覚えていても今の時代のこの場所で出会うことはないんだけどね」
青々とした人工芝が綺麗なグラウンドを見渡した。タイムトラベルする目的のため、13歳の天馬になるまでの歴史は一通り覚えている。
サッカーを追いかける君がいつも楽しそうで、だけど一人のことも多くて親近感があった。
デュプリによって、ボクは仲間を作ることは出来る。しかしそれで埋められないものがあるのだ。
「天馬に会いたいな……」
ポロッとこぼれ落ちた叶いそうにない願いはグラウンドが吸収していく。またねといって別れたのがたまらなく嬉しかった。もう会えないと思うよりいつか会えると思っていればきっとまた会える。
だけど、いつになるだろう?
胸を苦しめていく想いは蹴り出したボールに乗せた。転がるボールに目指すべきゴール。今は阻むものがいない。
ゴーーッと勢いをつけて蹴ったボールはゴールネットに吸い込まれていった。
「会いたいんだ……」
胸を抑えながらコロコロと転がるボールを眺めた。
すると、フワッと自分の顔の横を風が吹き抜けていった。
《大丈夫!なんとかなるさ!》
フェイが驚いて後ろを振り返ると、SARUが後ろを歩いていた。
「ーー風があった方が気持ちいいだろ?スイッチつけてきた」
「……そうだね、ありがとうSARU」
フェイはボールを取りに走り出した。


20210430




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