夢はみない/積み重ね【蘭マサ】



好きだ、愛してると言われても信じることはできない。そんな甘い言葉は自分に都合が悪くなったら軽々しく捨てられるものだ。
きっとこうして手を繋いでいることも夢なんだろう。
「どうして別れたいなんて言うんだ」
センパイは繋いでいない手で、オレの頬に触る。オレは答えない。答えたくなかった。
「狩屋、オレは別れたくないぞ」
触れた唇は妙にピリピリとして苦く感じた。どうしてセンパイがそんな辛そうな顔をしているのだ。違う、オレがそうさせた。
「ん……センパイ……」
キスとキスの間で言葉を漏らすが、センパイは有無を言わせずにその口を塞いでいく。息苦しさと胸に溜まる後悔と背中に冷や汗と、ぐるぐると足が沼に嵌って動かないみたいだった。
「霧野センパイ、オレは……」
お互いに涙が溢れそうになりながら、息を吐くと同時に口を開いた。
 

ハッと目が覚めた。じっとりとした汗が胸元を流れ落ちている。日が昇って部屋の温度が上がったからだろうか、身体がすごく熱い。
「ハーー……」
額に腕を当てながら天井を見上げた。真っ白な天井にぼーっとしていたら、涙が頬を伝った。
別れたのは事実だ。オレから別れを切り出したのも。だけど、センパイはあっさり受け入れてくれたのだ。
「別れたくなかったんだよ、センパイ」
漏れた言葉は静かな部屋に小さな飴玉のように落ちた。







20210426
 
いろいろあって、今オレはおひさま園で3歳の男の子の遊び相手をしている。
「らんまるってへんななまえだねー!」
笑顔がかわいい男の子はオレの名前をきいて、手足をバタバタさせて笑った。そんなに変かなと思いつつも、三角の積み木を1つ上に乗せた。すると、男の子は四角い積み木をその上に乗せようとして、当たり前のようにコロコロと落ちていった。オレがその積み木をもう一度その子に渡すと少し膨れていた。
「うまくのせるにはコツがあるんだよ」
「……コツ?」
「しかくいおおきなつきみは、したへ、ちいさなさんかくのつみきは、うえにおくとカッコいいよ」
フーンと面白くなさそうな顔をしている。どうも小さな子と遊ぶのは得意じゃないなあと顔をかいた。
「ねえ!なんかおもしろいはなしをして!」
「おもしろいはなし?」
「そう!」
男の子は霧野を左右にユサユサッと揺らした。うーんと唸りながらも何も思い浮かばない。困ったなあとぶつぶつ言っていると、男の子はアッと声を出した。
「ん、どうしたの?」
「……な、なんでもない」
先程まで楽しそうにしていたのに明らかに悲しそうな顔をしている。この数分で何が!?と霧野は慌てて問いただそうと口を開いて、ピタリと止まった。デジャヴだ。これ、ついこの間もあった。フルフルと頭を振って、霧野は静かに深呼吸した。
「じゃあなんでもいいから、オレに君のおはなしきかせて。オレ、思いつかなくてさ」
男の子は口を開こうとして閉じた。焦っちゃダメだ。男の子の目をじっと見つめて、また開くことを待っていると、男の子は顔を歪めて霧野に訊いた。
「らんまるはぼくのことすき?」
そうきかれて、先程感じたデジャヴが色濃く彼に重なった。
(センパイはオレのこと好きですか)
「……じゃあ君はオレのことすき?」
「う、うん……」
「そっか、嬉しいな。オレもすきだよ」
優しく頭を撫でると男の子は照れくさそうにもじもじしている。ああ、良かった。伝わってくれた。オレの気持ち。
「じゃ、じゃあらんまるのことかのじょにしてあげる!」
ニコニコと鼻息を荒くして胸を叩いた。かわいいなあと思いながらも霧野は頭を振った。
「ごめんね、オレにはまだ諦めきれない人がいるんだ」
好きだと何度伝えても信じてくれない生意気でめちゃくちゃ可愛い後輩をまだ、オレは諦めたくない。





20210427





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