普通【基緑】




 
目で追うようになって、自分じゃない誰かと話していると胸がざわつき立ち上がりそうになる前に目を逸らすことが多くなった。
「ヒロト」
「なに?緑川」
「ちょっと家のことで……」
とオレが深刻そうな顔でいうと、先程までヒロトの周りにいたクラスメイトらは一歩引いていく。オレたちがお日さま園の子たちというのはこの学校では周知の事実だ。
「……分かった。ごめん、みんな」
ヒロトは周りに軽く頭を下げて、緑川と共に教室を出た。行き先は、人のこない屋上だ。
グレー色の雲が空いっぱいに広がっていて今にも雨が降りそうだった。緑川は地面が濡れていなかったことにホッとして屋上をゆっくりと歩く。
「ごめんね、ヒロト」
「…………」
こうやって呼び出しては何も話さない。ただオレがあの人たちからヒロトを取られたような気になってしまい、咄嗟に出た行動だ。そしてヒロトも何回か無意味の呼び出しをされているのに理由は訊かずについてきてくれる。
高いフェンスはオレの身長の倍以上あって、ここから逃げるには空をまっすぐ上に飛ばないと無理だろうといつも考えてしまう。
「いいんだ、緑川。オレは気にしてないよ」
ヒロトはそういってにっこりと笑っている。不気味なほどにいい笑顔をするから、ああ良くないことなんだろうなあと胸に刺さっていく。
紫色の光はもう胸元になくても、胸はチクチクと傷んでしまう。
「ーーねえ、オレっておかしいのかな?」
緑川は胸を抑えながら、ヒロトに訊くと首を横に振った。
「普通だよ、普通のーー」
すると、ヒロトは急に緑川腕を引いて耳元で囁いた。
「人間だ。オレがそうじゃないだけ」





20210420




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