口に入れて確かめた【創作男女】




口の中で転がして幸せだなあと噛みしめる。向かいに座っている彼は私のことを気にせずにスマートフォンを弄っている。
噛み砕けるほど顎と歯が強ければもっと美味しく食べられたのだが、私は普通の人間だ。口の中で転がして飴のように無くなれと祈ることしか出来ない。
美味しくて幸せだと感じた時間は数十秒でその先は、ただの無味である。異物がゴロゴロと歯にあたってカチカチと音を立てていた。
音に気付いたのか、ふと彼が顔を上げた。
「あれ、お前何食べてんだ?」
私の目の前には真っ白な皿があって何も乗っていない。本当はもう1つこの皿の上にはある予定が一昨日出掛けた際に無くしてしまったようだ。
私は口の中に含んでいたものをその白い皿へと吐き出した。
カランと軽い音と共に唾液で濡れた輝きがチラッと彼の気持ち悪い顔に向けて差し込んだ。
「もうこれは味がしないの。私は帰るね、じゃあ」
さくさくと歩いてバタンと玄関の扉を閉めて、後ろから聞こえる騒音を合図に走り出した。
縛るものはない。左手が軽いからだ。大丈夫、私はしっかりと噛み締めてきた。
もうなにも彼には噛みしめるものは残っていない。
「あー美味しいもの食べたい!」




20210419




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