優しい友人【蘭拓】






いつもならそういう雰囲気だなと思って無視するし、後輩からも「言わせる前にあんな態度はセンパイらしくないですね」と言われるほどだ。
だが、突然出会い頭に言われてしまったら困るものだ。
「えっと、神童ではなく?」
「はい!霧野くんが好きです!」
見覚えのない制服をきたロングのこげ茶色の髪の女の子は、そういってオレの手を取った。あまったるい香水のような匂いを漂わせている。
隣にいた神童はどうみているんだとちらっとみると、女の子に取られたオレの手をただじっと見ていた。
「悪い、オレはお前のこと知らないし好きにならない」
掴まれた手をするりと抜けて頭を下げた。オレが頭を下げる理由は何もないが、さっさとこの場を去りたい。
「いえ、そんな分かっていたので……!どうしても伝えたかっただけなので……。実は明日で親の都合で遠くに引っ越すので霧野くんに会えなくなると思ったら伝えたくなって。こちらこそ迷惑かけてごめんなさい!」
女の子も同じように頭を下げた。最初、強引な人かと思ったがそういった事情のせいのようだ。少し潤んだ瞳に申し訳無さで心が揺れる。
じゃあとその子は去っていった。
「ーー霧野は優しいな」
神童がぼそりと呟いた。
「いつも期待を持たせない。オレは何回ああいったことをされる度にどうしたらいいか分からなくなる」
「でもいつもしっかりと断れてるだろう?オレは優しくないよ。告白されることを先に諦めさせてるから」
気持ちを伝えた方がきっと良いのだろうが、知らない人でもあんな顔をみたくないからだ。それはきっと、いつかの自分と重なるから。
「……そうか、だけど霧野は優しいよ」
そういって神童は歩き出した。オレもつられて隣を歩き出す。
神童の表情を覗くと口角が上がっていた。それを嬉しいと思ってしまう。
さっきの子のようにオレがお前に言いたかった言葉は飲み込んで気持ち悪くなることもある。だけど、隣をただ歩いていきたいから。
オレは優しくない、ズルいだけなのだ。
お前の幸せを望むならオレはお前の望む優しい友人でいるよ。
「なあ、神童」
「なんだ?」
「お前もオレと同じくらい優しい奴だぞ」




20210411




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