効くもの【大人照吹】




久々に会えることになった。いつもなら足取りも軽いはずなのに、今回は少し腰が引ける。
喧嘩といえばそうかもしれないけれど、本音をただ伝えただけだ。不安だった気持ちを素直に伝えて、きっとちゃんと考えてくれたからこそ会おうと言ってくれたのだ。
改札口を出て右に曲がって真っ直ぐいった先にある本屋に着いた。大体ここが二人の使う待ち合わせ場所だ。スポーツ雑誌を眺めながらもなんて言えばいのだろうかとため息が出る。
好きなんだから会いたくなる、相手にもそう思っていてほしい。
思い返すと結構重たい気がする。けれど不安がいっぱいで限界だったのだ。会えない日々が身を焦がして、ぐつぐつと煮込まれてえぐ味が出るような自分にうんざりしていた。
今から会えるのだから貴重な時間にえぐ味を味わいたくはない。
「吹雪くん」
照美がトントンと肩を叩いたので、振り返った瞬間に手を掴まれて引っ張られた。
「え、て、照美くん!?」
人と人との間をぶつかることなく避けて風のように走っていく。引っ張られるのが自分じゃなかったら絶対ぶつかっていただろう。照美くんは吹雪なら平気だと分かっているのだ。
人気のない路地に入ると抱き締められた。ビックリしたのと必死に走ったので心臓がバクバクと煩かった。
「ーー会いたかった」
抱きしめられている手に力が入っている。吹雪はだんだんと目が潤んでいく。
さっきまでモヤモヤとしていた気持ちが走っているうちに飛んでいき、心臓はまだ煩いのにスッと入っていく言葉は身に沁みた。
その一言がずっと欲しかった。
「僕もだよ、照美くん……!」
背中に手を回して僕も抱きしめ返した。







20210410




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