キスしたい【ひいあい】あん☆




 
パチッと目を開けると同じく目を開けた一彩がいた。真っ白な何もない部屋で、テレビとその隣には扉がある。
ここはどこだろうとキョロキョロしていると、ブゥンという音と共にテレビがついた。ついたものの画面は真っ黒のままだ。
「今からキスをしてもらいます。無事に出来たらここから脱出できます!」
景気の良い声がきこえてきて、びっくりして隣にいた一彩に抱きついた。
「ど、どういうこと……?!え、てかここどこ!?おれなんでここにヒロくんと??というかキスってさあーー……えっ!?!?」
藍良はめちゃくちゃ混乱して慌てふためく隣で、一彩は冷静だった。もしかして何か知ってるのかなと思っていると、
「フム、僕にもさっぱりだよ」
と藍良に答えた。そんな自信たっぷりに言わなくてもと一彩の顔をみて、藍良は少し落ち着いた。
「えーーっとつまり……もしかして何かテレビのドッキリとか?」
こそっと一彩に耳打ちすると、一彩は首を傾げる。
「ドッキリとは?どういうことだい?」
耳打ちしたのに大きな声で答えて、慌てて一彩の口を手で塞いだ。
「ヒロくんシーーッ!!!それは言っちゃだめなやつ!えーーと、つまりテレビのお仕事ってこと……驚くようなことを制作側が仕掛けて反応を視聴者が楽しむって感じ……」
だとしてもキスなんていくらなんでもやりすぎでは?と思ってしまう。こっちはまだ未成年なのによく企画通った。それだけ視聴率が取れると思ったのだろうか?
いやいやいや。
藍良は首をブンブンと振った。
(そもそもキスしてるところを見られたくないよ!!ヒロくんと……き、キスだったら尚更……)
悶々と考えていると、トントンと肩を叩かれた。
「なあに、ヒロくん。今おれ考えるのに忙しーー」
振り返ると一彩が顔を近付けて唇に触れようとする。
「バッ……!ひ!ヒロくん!!」
藍良は咄嗟に回避して、部屋の隅へと逃げた。一彩はどうしてだい?という顔でみている。
「キスをすればここから出られるんだろう?」
「そんな簡単にキスは出来ないでしょ!?ば、バカじゃないの!!もう!!」
一彩はゆっくりと近づいてくる。捕まったら力の差で一発で終わりだ。
「藍良はおれとキスしたくないのか?」
「し、したくないとかそんなんじゃなくてーー!!」
しょぼくれた可愛い顔してじりじりと迫ってくる。こんな狭い部屋逃げ場なんてない。ウーッと唸りながら30センチまで迫ってきた一彩を見つめる。
「こんなところでしたくないよぉ……だってヒロくんにとってキスは特別なんでしょ……?すごく大切な意味がある行為なんでしょう……?」
涙声になりながら訴えると、一彩はピタッと止まった。
「藍良、その……ごめんね」
悲しそうな顔して一彩は藍良の手をとった。
 
 
パチッとまた目が覚めると、寮のベッドの上だった。
「ゆ、夢……?」
ほっとしながらも藍良は心がズキンと傷んだ。きっとさっきの夢は昨日ヒロくんがキスをしてくれない理由を話してくれたからなんだと気付いたからだ。
せめて夢の中だけでもキスしてもらえばよかったと大きなため息をついて、藍良は再び目を瞑ったのだった。



20210406




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