記号の仮面【創作BL】




「モテるくせになんでオレとキスするんだ?」
ソファーの上に横になってゲームをしているさっきまでキスしてきた男に言った。オレは散らかったゴミや服を集めたり、掃除したりしている。ここはオレの部屋じゃなくこの幼馴染の男のものだが、来るたびに汚くてつい勝手に片付けてしまう。当の本人は汚いと感じていないようで、注意しても意味がない。オレはお前の親でも恋人でもなく幼馴染なんだがと思いつつもやってしまう。
「えーだって、お前とのキスなんか背徳感あるから」
なんだそれ。背徳感ってなあ。
ゴミをあらかたまとめたので、服を洗濯機にぶちこみ洗剤を入れてスイッチを押す。洗剤もう少しで切れそうだから買わないとだめだなーとか思うあたり家政婦の気分だ。
「ねえ、ちょっと」
中性的な綺麗な顔が目の前に迫ってくる。オレのほうが背が高いから少し背伸びをして見つめられると少しヤバい。
「お、おま何!ヒャッ……」
赤く染まるなオレの頬!と思っていると、耳を甘噛されて力が抜けた。ズルっと洗濯機にもたれかかってしまう。上に覆いかぶさるように男は両手をオレの顔の横についた。
「さっきの質問って嫉妬?」
「ーー違う。それはお前だろ、オレが来週からはここに来られないから」
耳かかっていた長い髪がオレの目の横をかすめる。
「だから部屋は綺麗にしておけよ、オレがいなくてもいいように」
ブラウンの瞳が潤んでいくのを見つめて頬を触った。ビクッと彼は反応して目を瞑ったがキスはしない。
ーーオレからはキスはしないと決めている。
胸板を押し返して彼から離れてリビングに戻ろうとすると、手を掴まれた。
「おい、ンッ」
唇が触れて舌が入ると甘ったるい味が一気にぶっかけられた気分にされる。気持ちの良いキスは背徳感のせいか?こいつがキスがうまいせいか?
両手で顔を持たれて息をする隙間もないほど求められる。そのままズルズルと足の力がなくなって、ゆっくりとへたり込んでいく。いつからこんなに求めるようになったのだろう。オレはいつだって、ただされるままだ。
「ン……は、もう、やめ」
ペチンと頬を叩かれた。
「お前がオレとのキス以外物足りなくまでやめない」
そういって流れた涙は首を伝っていく。物足りないと感じているのは先にお前だと思うぞと言う前にまた唇を塞がれた。

幼馴染の記号は多分溶けない。オレが手を出さないのは記号が首輪だからだ。この部屋だけがこいつが仮面を外せるが、オレは逆にこの部屋だけの仮面をつけている。
好きも愛してるもない、ただこいつの欲しがる感情の受け皿だ。それが仮面だ。
明日でこの幼馴染は親が決めた許嫁と結婚する。そしたら、もうこんなキスは出来ないだろう。



20210405





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