いない人【基緑】



※アレス軸の緑川ですが、無印二期要素あります。カプ表記してますが、ほぼ要素なし。

 
SFかのような場所にオレはいた。薄紫色がかった廊下の先にはどこへ繋がっているのだろう。なんだか行きたくないと足取りが重くなる。気がつけば息が苦しくて、冷たい壁に縋りながら廊下の先を目指して歩いていく。ポタッと汗が床に落ちた。
「なんで、こんなオレ」
なんでこんなことしているのだろうかと湧き出た疑問が頭をズキズキさせて、考えるのをやめた。
「レーゼ」
「え、だれ……?」
聞き覚えがある声にキョロキョロと周りを見渡すが誰もいない。確かあの声は、今世界大会に行っているタツヤの声だ。だがいつもより少し影があって低く感じる。
レーゼとはなんだろう。痛む頭を抑えて、歩くのを休んだ。
「父さんのためだ。これまでの恩に報いるんだ」
「!!だ、だれなの!ねえ!」
再び聞こえてきた声にすぐに振り返ったが誰もいない。だが歩いてきた廊下をみてゾッとした。真っ暗だ。何もない。その闇はだんだんと近付いてきているようだった。
「ヒッ……!あ、あ……」
オレは必死に歩き始めた。吐きそうだし足も手も思いし、胸だって痛いと胸に手を当てると硬いものがあった。それは怪しく輝いていてさらに不安にさせる。
どうして、オレがこんなことに、こんな、こんな。
父さんのためって、そんな。
「レーゼは頑張ったよ。だから……おやすみ」
コツンと降ってきた誰かの言葉に一気に身体が動かなくなり、目の前が見えなくなっていった。
 
 

緑川が目をゆっくり開けるとまだ日も昇らず、部屋はうす暗かった。ドクドクと自分の心臓が激しく鼓動している。怖い、動いたらまた何かされそうで怖い。
「うう……」
一番仲の良いタツヤの顔が浮かんだ。タツヤは今はいない。夢と同じだ。
(なんでいないの、こんなときに)
今縋れない現状は、自分が弱いからだ。代表に選ばれるくらい上手くなりたかったと緑川はギュッと目を閉じたのだ。
 
 
20210331




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