気付き【円冬】



※冬花が専門学校卒業設定。

 
明日は専門学校の卒業式だから、夕飯はちょっと頑張りたい。お父さんは仕事を休みにしてくれて式もきてくれるらしい。お父さんのおかげで卒業できましたという感謝を込めてどんなメニューしようと考えている時だった。
「じゃあねーまた明日!」
「おう!気をつけて帰るんだぞー!」
河川敷から小さい子供の声と耳に馴染む声が聞こえてきた。私の横を小学校低学年くらいの子どもたちがバタバタと走っていく。その中の一人の手元にはサッカーボールが見えた。
「マモルくん」
「あれ、フユッペ!久しぶりだな!んんーと、去年の夏に雷門中のみんなと集まったぶりかな?こんなところでどうしたんだ」
「私は今から買い出し。マモルくんこそ、さっきの子どもたちは知り合い?」
「そっか、実はさーー」
マモルくんが話している間、また背が伸びたなあとかまた足のところ怪我しているとか知らないところを探していた。それと同じくらい話していると会ってなかった時間を感じさせないくらい距離感を感じさせない。
「ーーって感じでさ。時間が少しあったからアイツらの練習みているんだ」
「ふふ、そうなんだ。サッカーのマモルくんらしいね」
私がそういって笑うと、久々にきいたと同じように笑った。
「よく言われるんだ。昔と変わらないなって。そりゃサッカー大好きから変わらないけどさあ……」
「変わらなくていいじゃない。だって私はーー」
言いかけた言葉に気付いてハッとして飲み込んだ。だって私は。
 
びゅうと風吹いて、目の前をどこから運ばれてきたのか桜の花びらが横切った。思わず目を閉じて、そっと開けるとびっくりしたなあとマモルくんは風が吹き抜けていった方向をみていた。
その横顔は私は見たことがない。
くらっと足元をすくわれたかのような感覚にもう一度瞬きをした。
「フユッペ?」
「あ、ごめん。もう行かなくちゃじゃあね」
私はそういって胸を抑えてその場を去っていく。
知らない、なんだろうこれ。マモルくんの横顔と桜の花びらが目に貼り付いて離れない。
明日は卒業式。卒業して、次のステップへといく。今は飲み込んでしまった言葉を次の時は飲み込まないかもしれない。
熱くなっていく胸の内はまだ蕾のままだ。




20210325




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