次の駅へ【照吹】



※付き合って別れた。


間違えて逆方向の電車に乗ったことに気付いて、吹雪はすぐに次についた駅で降りた。反対のホームへと歩き、電車が来るのを待っている。
静かな駅で電車を待つ人も少なかった。吹雪は目の前にみえる名前だけきいたことある大学の広告看板をぼんやりと眺めた。
去年までならこんなこともなかったのだろう。
愛しい人が待つ部屋へ帰るだけだったのだから。
ーー半年前の突然のお別れも時が経てば風化して息が苦しくならないと思っていた。それなのにただ間違えて乗ってしまった電車に、こんなに後悔するなんて思わなかった。
ポケットに手を入れても触れる鍵はどこにもない。手放したくなかったあの鍵は彼へと返した。
「……別れたくなかった」
その想いが今でも自分自身を苦しめていく。離したくないと願っても彼は離してくれと言ったから、無理強いは嫌だった。
本当に大好きだった。小さな出来事の1つ1つが僕を戻らせようとする。
ホームへ次の電車のアナウンスが聞こえ、風が目の前を吹き抜けていく。
僕が乗るべき電車が来る。今日はホテルについたら速攻寝て明日は北海道に戻ろう。
電車がホームについて、僕は一歩大きく足を踏み出した。
「吹雪くん、好きだよ」
甘い幻聴が耳に届いても僕は振り向かなかった。電車は予定通り動き出した。



20210318




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