赤い林檎にみせられて【白雪パロ】5



※R15の表現あります
※グラン×照美の要素あります













扉をはじめて開いたのは、魔力のせいではなかった。穏やかに笑う魔女の口元。ああ、夢であればよかったのに。吸い込まれるようにして腕をとられた。

「なぜここまできたのですか」

照美は魔女にきいた。

「昔々のお話だよ。ある少年のお話。希望を失った少年のお話」

魔女が照美の腰に紐を巻いていく。身体は自分の意思では全く動かなかった。不思議な力によってコントロールされているのだろう。腰ひもはエメラルドのようキラキラと緑色に光っている。小さなお花が描かれておりとても可愛らしいものだった。

「彼はどうすることも出来ないまま、ただ空ばかり見ていた。手元には腰ひもと櫛が置いてある。ひたすら泣いた。自分のふがいなさに無力に嘆いて嘆いてーーー気付いたら星が零れてきた。紫色に気味悪く光った。どこから沸いたのだろう、この力なら希望を取り戻せると手にした。彼は魔女になったんだ」

照美の背中に回り魔女の継母は紐を力強く締め付けていく。
息が苦しい。細い身体はさらに細さを増していく。

「それと、どうわたしはかんけいあ…」
照美はバタリと倒れた。

「あるんだ。君が姫のふりをしなければならないことと同じでね」


照美は目を開けるとボロボロと涙をこぼしている小人達がいた。
息を吸い込むと生きている実感がした。
小人の説教を流しながら記憶をゆっくりとたどる。継母はきちんととどめを刺していない。そして、少年の話と私を殺すことにどう関係しているのだろうか。


二回目も継母はきた。
私に似合わない翠の櫛を無理矢理に差して、三度殺そうとした。
だが小人により私はまだ生きている。
理由が分からない。美しいから?それだけ?美しさは罰だと以前に本で読んだことがある。人を惑わすからだとか…。
ならば、私の美しさは継母を狂わし惑わしたのか。

「照美姫、今日で終わりにしよう。お前を殺す」
扉を開いた先にいたのはやはり魔女だった。照美はまた動かなくなるのではと思ったが、今日は何故だか動く。しかし、魔女に腕をつかまれて家の外へ連れ出される。痕がつくような強い力。憎しみを込めた力だ。

「何故私は殺されなければならないのですか母上」
照美は魔女の瞳を睨み付けた。彼女の瞳はどこか焦っている。ポツリと頭に水滴が落ちる。

「私はグランだ!お前の母じゃない!私より美しいからだ!」

次第に雨滴が増えていく。グランの顔にも水滴が流れて泣いているようにみえる。
心の中で泣いている。一人辛い苦しいと泣いている。
この人は救われたいのか。私を殺すことで救われるのか。

グランは林檎を差し出した。赤く染まった艶が光り輝く林檎。この世のどの林檎よりも美しく見えた。

「あなたみたいね」
照美はぼそりと呟いた。グランはにやりと笑って林檎を照美の前に差し出した。

「さあ、食べるんだ」
「いやよ、林檎は嫌い」

グランが林檎を照美の口元へと押し付けようとすると、空いている手で振り落とした。林檎はごろんと地面に転がった。グランが落ちた方向に手をあてると、林檎は吸い込まれるようにグランの手に戻る。林檎にどこにも傷は付いていなかった。雨が降って地面が濡れているにもかかわらず、泥さえ付いていない。

「まるであなたみたいな赤い林檎。うす気持ち悪い」
憐れむかのような言いぐさに血が煮えたぎる。…気持ち悪いだと?どうしてだ。誰のせいでこうなったと思っている?姫のその目が嫌いだ。あの時の目と一緒だ。軽蔑のまなざし。私はあなたより綺麗なのに綺麗なはずなのに、何故そんな目で見るの、何故人じゃないような目で見るの。やめろ、やめろ………!!

グランは持っていた林檎をひと齧りした。
黄色く濁った汁が口元から垂れる。そのまま姫の腰に手を当て、ぐっと引きよせた。照美は逃げようとするが体は動かなかった。
グランの髪から水滴が滴り、照美の口に落ちた。少し開いたグランの口はまっすぐ照美の唇へと向かっていった。柔らかく非常に冷たい。口を一の字に塞いでいると、舌でそれをこじ開けてきた。
すると、グランが照美の顎を引き上げて、自分の口に含んだ林檎の液を流しこんだ。甘いはずなのにとても苦く吐き気が襲ってくる。林檎は本当は嫌いじゃないので、食べたことはあるが、こんな味ではなかった。流し込まれた林檎の液を飲まないように吐き出そうとするが、うまくいかず逆に息が苦しくなり、ついに飲み込んだ。受け入れがたい拒否している物が喉を通っていると思うと、寒気が全身を覆った。喉を通ったことを確認すると、グランは照美を突き放した。

バンッと家の中へと照美は倒れた。口から林檎の汁が漏れる。こんなふうにされるとは思ってもいなかった。立とうとするが、うまく足に力が入らない。私は怖かったのだ。人が怖いと思ったことは何度かあるがそれでも気丈に超えてみせた。しかし今はどうだろう。立ち上がることさえままならない。ただ怯えたようにグランを見つめることしかできない。


グランはペッと唾を吐きだして、見たこともないような満面の笑みを浮かべた。それは魔女のような笑いでも悪魔のような笑いでもない、すべてを捨て切り解放されて何もなくなったといった笑いだった。

「私の毒で作り上げた最高の林檎の味はどうだい?お前はもうじき死ぬだろう。さようなら、照美姫…私の…」
グランの顔を見つめながら次第に瞼が閉じていく。最後を聞き取れないまま照美は意識を失った。



私は死んだのだからあの人は救われたのだろう。何故だか安心している自分がいる。不思議だ、心はあんなことされていても穏やかに波を打っている。



…continue










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詳しい説明がほしい感じになりました。
最後に補足つけます
どちらも親愛ではないんですが、表現上×表記をして※をつけました


20120506






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