朝の永遠/永遠の夜明け【大人基緑】




※付き合って同棲してる!



 
パチッと目が覚めて横を向くと気持ち良さそうに寝息を立てている緑川がいた。いつもなら緑川が先に起きてコーヒーを入れ、その匂いで起きることが多い。ある日、ゆっくり寝ててもいいんだよと言ったことがあるが早起きは三文の徳だからねと緑川らしい返答をした。
そういえば今週は気が重い接待が立て続けにあり、オレの秘書である緑川もスケジュール調整に苦労したらしい。今日はようやくオフで肩の荷がやっとなくなってホッとしたのかもしれない。
隣で眠る緑川は実に可愛らしいなとつい触りたくなってしまう。起こしてしまうからそんなことはしないが、いつまでも同じ朝を迎えていたい。
「オレのワガママかな」
小さく漏れた言葉は白いベッドが吸収する。開けていないカーテンから日の光が漏れて部屋の隅を照らしている。
ワガママでもいい。いつかは訪れる隣に愛する緑川がいない朝はもっともっと先にしてほしい。こんな可愛い、ついキスして抱き締めたい寝顔を独占できなくなるのは嫌なんだ。
耐えられずにそっと顔を抱き締めた。
「ん……」
緑川がゆっくりと目を開けた。ヒロトの胸元から顔を上げて、びっくりした顔をしている。そんな表情も可愛いんだよ、誰よりも。
「どうしたの?今日は早いね、ヒロト」
緑川は瞼が少し重そうな瞳を向ける。
「緑川の可愛い寝顔が見たくてね、起きちゃった」
ぎゅうともう一度抱き締めた。
「えーなにそのキザな台詞」
クスクスと笑う緑川の身体の振動がこそばゆい。この歯痒い愛おしさがどうして伝わらないんだろうと再び閉じようとした瞼に口づけをしたのだった。 





20210311




 
朝起きて、隣に眠るヒロトの顔を見る瞬間がたまらなく好きだった。大人になっても一緒のベッドで寝て起きてを繰り返すとはきっと幼い頃の自分は想像もしていなかっただろう。
幸せになれて良かったと思うと同時に昨日の接待後の帰り道のことを思い出す。
 

「どうしてお見合いの話を断ったの?会うだけでしょ、うまくいけば仕事の利益にもなるし」
取引先の会長がそういう話を持ち出したのだ。オレと一緒に暮らしていることをどこからか手に入れたらしく、ヒロトのことを可哀想に思ったらしい。父さんが亡くなってからの吉良財閥の若手社長だ、そういう手段で手っ取り早く自分の駒にしようとする相手も多い。
「あの人、緑川が席を外した時に何て言ったと思う?」
「え?」
そういえば会社から急ぎの連絡がきて15分程席を外していた。あの時か。
「同性が好きなんじゃないかと噂されるのも地獄でしょうからと言ったんだよ」
「……よく本人に言えたね。それでヒロトはなんて返したの」
「まあ端から見れば地獄に見えるかもしれませんが、オレにとっては緑川は昔から家族ですから地獄と思ったことは一度もないといったさ」
だからあの後少しピリピリしていたんだなあと緑川は合点した。その会長はその後もお見合いをセッティングしたいと話をしていたが、ヒロトは絶対に頷くことはなく終わったのだ。

 
「ほんと格好いいんだから」
ヒロトの寝顔をじっと見ながらぽつりと呟いた。秘書として会社のためになるのであれば、お見合いくらいセッティングはする。他の人に想いが傾こうが、それはヒロトが決めることだ。いつまでも恋人のままでいられるなんて端なから思っていない。だからこの職を選んだのだ。恋人でなくてもヒロトを支える。
その日がきたらこの大好きな寝顔はもう見られないかもしれない。
カーテンから漏れる光が部屋の隅を照らすのをみて、そろそろ朝の支度をしようと起こさぬようにベッドからゆっくりと抜け出した。
きっとそんな日がきても、明るく眩しい朝が来る。

だけど、少しでもいいから、端から地獄かもしれない日々が続くように好きな人のために最高の朝の香りを作るのだ。
 
 
20210312







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