溢れる苦しい愛おしさ【いつ純】ド!



 
伝わらない思いが溢れて溢れて何度もやめようと思った。みんなと同じいつも通りに過ごして、何も知らずに笑う純哉くんがいればいい。自分の足元にこびりついている思いは無視してしまえばいい。
 
「純哉くんが好きです」
テレビに映って歌っている純哉くんに向かってぼそりと溢した。
純哉くんはオレの憧れ以上の思いがあってあの場所に立っている。
だからオレの憧れなのだ。輝かしい強い意思がオレにはないものだと思って手を伸ばしたくなる。
それなのに今は最初に抱いた憧れさえも投げ捨ててしまいたくなる感情にぐらぐら揺れて、オレを好きになってと引き留めたい。
いっそ嫌いになれたら、良かったのにそんなことは出来ない。
苦しいなあと思っていたら、タイミングが良いのか悪いのかスマートフォンに純哉くんから連絡がきた。
《この間の雑誌のいつきの記事、読んだぞ》
オレの記事?そういえばちょうど今日事務所でもらった雑誌がそうだったはずと、鞄から取り出した。
オレ単独の特集で最後には読者からのお悩み相談に答えるといった企画だった。勉強のお悩みに答えることが多いが今回は恋愛相談だった。
《最後の相談の回答、すごく良かった。いつきならではの寄り添い方だったし》
その記事をみて、ああこんな風に書いてもらえたんだと嬉しくなった。
片想いの女の子の相談で、先輩を好きになってでもなかなか振り向いてもらえず毎日が苦しくもう諦めようかなと悩んでいるというものだった。
『君はとても素敵な恋をしたんだね。そんなに素敵なら諦めてもいいんだよ』
と見出しに書かれている。内容を振り返って、女の子に寄り添いつつも最後に言ったところが目に止まった。
『オレがどれだけ諦めてもいいといっても諦めきれないかもしれない。好きなことは時に苦しいけれど、その苦しさも愛おしい瞬間が訪れることもあるよ』が諦めるなと励ましていた形になっていた。
取材を受けたとき、おそらく純哉くんのことを考えていたろうなと笑いが溢れた。そして、純哉くんへ返信する。
《オレ、ならではの寄り添い方でしたか?》
《うん。苦しいのも愛おしいといえるいつきは格好いいよ》
純哉くんの返事にフーッと息を吐いてソファーに顔を埋めた。
「格好いいのは純哉くんですよ」
そして、オレがこんなに苦しくて伝わらなくて嫌いになりたいと思う程仕方なく好きでいたいのは、格好いい純哉くんを好きな自分の想いも愛おしいから。
ありがとうございますと返しながら、また苦しい想いを今夜も味わうのだった。




20210306




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