夢に揺れてしまう【蘭拓】




 
ああこれは夢だと分かった瞬間に、目覚めてくれたらよかったのに電車は未だに揺れている。
隣にいる神童の寝息がとても懐かしく感じた。オレは寝た振りをして、肩に寄り添った。
小さい頃、二人で電車に乗って遊びにいってお金が足らなくて改札通れないことがあった。駅員が親に連絡してくれて、事なきを得たけれど確かあの時はそう、行き先を決めていなかった。
電車に乗ったことがないという神童にちょっぴり見せてやりたかったのだ。なんでも出来る神童に、オレは電車に乗ったことがあるぞと。
乗ったことはあっても、乗車賃の見方は知らなかったため適当な額の切符を買って乗り込んだのだ。
知らない人が沢山乗り込んで降りてを繰り返し、窓の外は景色がどこも違って見える。最初は楽しくて仕方なかった。けれど、どこで降りるのか神童に訊かれた時に言葉が詰まった。
「どこ……うーんと、もうすぐだよ!」
オレが答えるとそっかと安心した顔を見せた。オレはすぐにしまったと同時にものすごく自分が情けなかった。
神童が知らないことをオレは知ってると教えたかっただけなのに、こんな不安にさせてたんだと次の知らない駅で降りたのだった。
 
「ん、霧野……」
肩で寝ていた神童の口が開いた。オレはゆっくりと目を開けてどうした?と返す。
「もうすぐ着く?」
デジャヴかのような問いに胸がざわつく。やっぱりこれは夢なのでは?と心臓がいたい。
「んーあと2駅だな」
「……そうか」
と返事をして再びスーッと鼻で息を吸って吐いて頭は肩に寄せたまま目を閉じた。
いいのか、神童。オレを信じても。
夢だったらいいのかもしれない、夢じゃないなら目覚めて自分で確かめて決めてほしい。
ガタンと揺れる電車の中、次の駅のホームが反対の窓に映りこむ。本当はここで降りないといけないのに、オレたちは降りなかった。
あとで怒られてもいいから、もう少しこのままと願うオレをどうか許してくれ。


20210304





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