離れたくないな【ひいあい】あん☆




「卒業式だったのかな」
ファンの子に手を振っている一彩の後ろからひょこっと顔を出す。
「卒業式?どうしてそう思うんだ」
「え、あの子の制服の胸元に花がついていたでしょ」
「そうだったけど、それは卒業式と関係あるのかい?」
あーそっか、知らないのかと藍良は納得した。世間とは違う時代で生きてきたかのような一彩が知らないかもしれない。
「夢ノ咲も卒業式はあったかと思うけれど、返礼祭の方がイメージ強すぎて霞んじゃうもんなー」
うんうんと一人頷いていると、むうと膨れた一彩が藍良の両手をとった。
「藍良、教えてほしい。どうして花が胸にあると卒業生だも分かるのか」
キラキラとした瞳で見つめられると、思わず逸らしたくなる。こんな至近距離で真剣な表情で見られると、なんでも許してしまいそうだ。
「ーー卒業式の日は在校生がね、卒業生の胸に花をつけてあげるんだよ。『卒業おめでとうございますー』って言いながら。まあ全部の学校がそうではないけれど、きっとヒロくんがさっき握手をしたファンの子もそうだろうなあって。あの子、いい思い出になったろうなあ」
俯いて話していくと、一彩は両手をギュッと握る。藍良が顔を上げるとそうかと嬉しそうな顔をしていた。
「それなら嬉しいな。僕に出来ることは限られているけれど、そういった門出の時に会うことが出来てよかった」
よかったねと言いかけて、藍良はふと一彩もいつか離れていくのだろうかと急に不安がよぎった。よく分からない故郷へいきなり帰ってしまうかもしれない。こうして握られた手を簡単に離して、知らない場所へ行ってしまうのかも。
「……ヒロくん」
「なんだい?」
「ヒロくんがもし門出!って時は絶対言ってね。胸元に花をおれがつけるから」
「う、うん?でもさっきに説明だと在校生がつけるという話だったけど、それじゃあ……」
頭に沢山ハテナを浮かべている一彩に思わず吹き出した。
「いいの!おれがつけたいんだから!それまでは……簡単にどこかに行かないでね」
握ってくれた手を握り返す。この手を忘れたくない。出来るだけ長く何度も触れていたい。
「ああ、分かった。約束するよ」
優しく微笑む一彩を今はただ藍良は信じていたかった。




20210302




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