居場所【創作BL】





「ねえ取り壊すんだってさ、ここ」
急に止まるから繋いでいた手を引っ張られた。危なく尻をつきそうになる。
「ちょっと!?急に止まるなよ?!」
「ごめんごめん、コケなくてよかったね」
笑いながら謝られても、全然気が晴れないなとハーとため息をこぼした。彼が指差すポスターをみると、なるほど確かに《長い間ご愛好ありがとうございました》という挨拶がつらつらと手書きで書かれていた。
「ここでオレたちは出会ったのに無くなっちゃうの、寂しいよね」
「……いや、ここで出会ってないだろう。正確にはお前が熱でここで倒れていたんだよ」
あれそうだっけ?と思いながら、彼は手を離さずその場にしゃがんだ。
「何故しゃがむ」
「懐かしいから」
「意味分からん」
あははと彼は笑った。こういう風に手を繋いでここを懐かしむことがあるとは思ってなかったな。今は何も入ってない廃墟のビルを見上げる。前まではいくつかの店が入った雑多なビルだった。小さい飲み屋やダンス教室、または何かの事務所など。年々店は減っていき、最後は1階に店があった花屋も潰れたようだ。
「あの時の花、嬉しかったな。お前が全財産で買った一輪の花」
オレがぼそりというと彼はぴょんと立ち上がってこちらをみて顔を輝かせた。
「嬉しかったんだ!?なんか微妙な顔してたから嫌だったのかと……!!」
ギュウギュウと腕を絡ませて顔を近づけてくる。オレは顔を押し返しながらくっつけてきた腕を剥がした。
「くっつくな!ばか!」
「はいはーい……ちょっと位いいじゃんか」
渋々と指を絡ませて手を繋いだ。あの頃より多少はバカじゃなくなったと思ったが、まだまだバカだな。
「まあここが取り壊されても、オレにはこの場所があれば別にいいや」
と彼は歩き出した。ビックリして、オレはおっとととまたコケそうになりながらも隣をついていく。
「だから、手を繋いでいるんだから急に……!」
「といいつつも、ついてきてくれるところ好きだよ」
振り返って笑う顔は出会った頃と変わってなくて繋ぐ手の力が強くなった。 




20210224




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