大丈夫のおかげ【勇圭】ド!




「圭吾」
勇人の声が後ろからする。まだ息が整わず、返事が出来ない。ヒューヒューとした声が冷たい暗い廊下に響いている。
勇人はグイッと腕を引っ張りそのまま抱き寄せながら、空いていた部屋へと入れた。
「ゆ、勇人、ごめん。大丈夫だから」
息を切らしながら勇人の胸を押した。その力も入らない。ごめんと大丈夫を繰り返しながら、そのまま崩れていく。
まさか、こんな風になるとは思わなかった。触られた肩が気持ち悪くて震えてしまう。
子役時代のトラウマの根元であるプロデューサーとの仕事だった。あの頃とはもう違うと圭吾は隣にいる勇人をみて思っていた。しかし、勇人が隣にいないときにあの頃の話を聞かれて、耳元で「変わったね、すごくよくなったよ」と肩を叩かれた。寒気がしたし、なんでお前がそれをいうのだと思った。
一度は断たねばならなかった夢の道を、ようやく歩き出したときに。
必死にその場を耐えて、誰もいない廊下の隅に逃げ込んだと同時に息が苦しくなった。フーフーと息を吸って吐いていたのがだんだんヒューヒューと音を変えていった。
早く戻らないと思うと余計にひどくなっていく。そんなところを勇人に見つかった。
 
チッと舌打ちをした。
「こんな仕事受けなくてもよかった」
「そ、そんなわけには」
まだまだオレたちはデビューしたての新人だ。プロデューサーが嫌だからと仕事を断るわけにはいかない。
早く治まってくれてと自分の服の裾を握ると、勇人がしゃがみ涙目でいるオレをみた。
「許せよ」
といって、勇人は唇を塞いだ。圭吾が驚いている数秒後、唇が離れた。
「……勇人っ!おまえ!」
赤面した圭吾を勇人がフッと笑って抱き締めた。
「ちょっ……!」
「大丈夫だ、オレはここにいる。オレを信じろ」
抱き締めた腕は優しく、圭吾もゆっくりと呼吸が整っていった。


20210219




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