受け取ってほしい【静なな】ド!



遅くまでチョコを作っていたら完全に寝坊した。今日は大事なバレンタインライブがあるのに、本当に大失敗だ。着いたときには既にリハーサルは終わっていた。
「あんなに怒らなくてもいいじゃん……」
ななはメソメソと体育座りをして涙が止まるのを待った。本番前だからこんなことをしている場合ではないが、つい勢いで飛び出してしまった。自分にも他人にも厳しい静に怒鳴られた。静が怒っているのはよくあることだ。だが静に呆れられたと思うと、なんだか胸が痛くてたまらなかった。
 
「日高はアイドルに向いている」
静は上から目線で言うことが多いので誤解されがちだが、怒る頻度と同じくらい人褒めている。彼的には褒めるというか評価している感じらしい。
ある日、アイドルに向いていると言われてすごく嬉しかった。静とは同じ時期に養成所から事務所に入った。周りからみてもストイックであり、また他のアイドルへ目を配っている。スゴいよね!と言ったら、当たり前だとため息をつかれた。それもまた気遣いというより他のアイドルの良さを理解して自分も吸収するためだという。すごいなーすぐにデビューするだろうかと思っていた。
しかし現実は甘くなかった。アイドルとしてデビューはグループを組まなくてはいけない。静はそのグループで躓いていた。
ななも一度一緒のグループを組んでバトルライブへと出たことがある。いい感じだったが、優勝は出来なかった。
「静ちゃん、悩んでいるなら占ってあげようか?」
なながいうとも拒否をされる。
「自分で気付かなきゃ意味がないんだ」
静は占いが嫌いなのだ。勿体無いなとななは思った。でもそういう追求しようとする姿はななは好きだ。自分にはないストイックさ。もっと知りたいと思った。

「なな緒、ここにいたか」
涙を拭って見上げると、秋臣がいた。
「……なーに」
ムスッとしているとしゃかんで目線を合わせた。
「付き合いの長いなな緒なら静があんなに怒ってもいつもは別に大したことないだろう?なのに今日はどうしたんだ」
「ーー今日知っているでしょ。バレンタインで静ちゃんの誕生日のこと」
うんうんと優しく聞いてくれる秋臣はなんでも話しやすい。だからユニットとしてもうまくいっているのだ。
「それで、昨日静ちゃんへの誕生日チョコを頑張って作ってたの。いつもありがとうって渡すつもりだった。それで遅れちゃったんだけど……」
また涙が出そうになる。こんな雰囲気じゃチョコを受け取ってもらえない。そう思うと悲しくてたまらないのだ。
「なならしくさ、素直にそう言えばいいよ。大丈夫、静も今はななと同じように凹んでるよ」
「え、そうなの?」
ななが驚くと秋臣が立ち上がる。
「ほら、静きたよ。ちゃんと頑張って笑顔で一緒にステージ立とうな!」
そういって走り去ってしまったのと入れ違いで静が息を切らして走ってきた。
「……日高、その」
言いづらそうにする静にクスッと笑いそうになった。
「何がおかしい」
また怒りそうになったので違う違うと首を振った。
「おかしくないよ、静ちゃんらしいなって……今日は遅れてごめんなさい。あのね、今日静ちゃんの誕生日だからゼブラ柄のチョコ作ってきたの。それで遅れちゃって……ライブ終わったら受け取ってくれる?」
ななが必死にいうと、静はハーと息を吐いた。
「俺も理由を聞かず怒鳴って悪かった。ついカッとなって……俺の悪い癖だな。日高、お前には笑顔になってステージに立ってほしい。笑顔で歌うダンスするお前はみんなを幸せにする。俺もそうだ」
頭をポンポンと優しく叩いた。
「ーーそれにお前が頑張って作ったチョコを貰わないとかあり得ないだろう。ありがとう」
少し耳が赤くなっているのをみて、ななはこちらこそ!と静に抱きついたのだった。



無配webペーパーでした
20210214




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