我慢はしない【蘭拓】




声をかけようと思ったその瞬間に手が止まった。可愛くラッピングされた……おそらくバレンタインチョコと思われるものを神童に渡そうとしている。高い位置に髪を2つに結んだ可愛らしい女の子だ。会話は聞こえないが神童は断ったようで受け取ろうとしない。女の子はすごく残念そうな表情を浮かべて、受け取らなかったチョコを見つめている。
あ、泣きそうだなと思った。
泣かれたら神童が大変だろうとオレは偶然を装って、声をかけた。
「ああ、神童。ここにいたのか、さっき先生がなんか呼んでいたぞ」
女の子も神童も同じようにビクリと反応した。
「そうか……。すまないけれど、やはり受け取れない。ごめんな、先生に呼ばれているしオレはいくよ」
と霧野の方へとかけていく。チラッとみると女の子は恨めしそうに霧野を見つめている気がした。
すまないな、オレも譲れないんだ。
職員室へと向かいながらも、空いている教室を探していく。
「霧野、オレは受け取ってないぞ」
霧野の様子がおかしいことに気付いたのか神童は声をかけるが、霧野は返事をしない。
ああ、ここでいいかと男子更衣室の扉を空けた。ここは基本的に職員用なのだが、職員室から遠くあまり使われていない。入ってから人の気配がないことを確認してガチャッと鍵をしめた。
「霧野、先生が呼んでいるというのは」
ダンとロッカーへ腕をついた。神童はあ、と察した。
「嘘に決まっているだろう。神童が困っていたからさ」
耳元で囁くと身体をきゅうと縮こまらせる。怖かったかとみると耳も頬も赤く染まっていた。
「あ、ありがとう……」
少し見上げた感じで見られるとたまらなく可愛くて、一瞬だけならとゴクリと生唾をのみ染まった頬へと手を伸ばす。
指先が顔の輪郭をなぞるとますますぎゅうとなっていく。
「こ、ここでしないよな?霧野……?」
ああ、それはズルいよ。そんな顔して誘われたら。
「……してほしいんじゃないのか、なあ」
オレは神童のように我慢強くないんだと囁いて唇に触れた。



20210212




prev next








×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -