夢で待ってて【奏純】ド!



 
絡んでいた腕が離れてしまって、あの人は他の人の元へと歩いていく。オレの方が好きだった。何度も何度も思ってはそれでも届かなかったと泣いた淡い夜。
「それでも友だちでいてほしい」
残酷なお願いをオレは頷いた。オレはお前の隣で歩けるのなら、この思いが消えてなくならなくてもいいのならこれも運命だというのなら。自分を縛っていく思いは涙を含ませてどんどんと重たくなっていく。やがて歩けなくなってもオレは君が好きだから。
「君の笑顔が好きだから」

 
街の大きなモニターには最新話題作!と銘打って宣伝MVを流している。奏は目深に被っていた帽子のつばを少しあげて、ぼんやりと眺めていた。
「純哉くんはすごいな」
とある恋愛小説が原作の映画に純哉が抜擢された。そこまで演技経験があるわけではなかった純哉だったが見事に演じきった。期待以上に。世の中はこの泣ける映画のことで持ちきりだった。純哉も今まで以上に仕事が増えて忙しくなった。二人きりで会ったのはどのくらい前だろうか。
「会いたいな」
同じユニットに所属しながらも個々の仕事が忙しくなると会えるタイミングも少ない。デビュー前は毎日のように会っていたのが嘘に感じるくらいだ。
 
ぽつりと雨が帽子のつばに落ちた。するとぽつぽつと雨粒は増えていき、コンクリートの地面を黒い水玉に仕上げていく。
 
あの日も小雨が降っていた。 
「ごめん、別れよう」
この映画の主演が決まった時だ。なんでといっても揺さぶっても理由は答えられないの一択だった。奏は無理だといっても純哉は引かない。固い決心だった。
奏は純哉から離れるしかなかった。
それからたまにくるグループの仕事をうまくこなしていく日々で、他のメンバーも様子がおかしいことに気付いて話しかけてくれたが結局はこれは二人で話し合わないと意味がない。
純哉と別れたせいなのか、その頃から睡眠が浅くなってよく夢を見る。
純哉を愛した日々、愛しい日々を夢の中では繰り返している。大好きだといってくれたのは嘘だったか、自分のことを淫らな声で求めたのは本当だったのか。夢の中では幸せで起きたときの悲しさが絶望に近い。
 
「『さよなら、夢で逢えたら』ねえ」
湿っていく服に構わずに映画のタイトルを思わず読んだ。



20210207




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