どうして今日【大人風宮】




言いかけた言葉を飲み込む姿をみるのは何回目だろうか。中学生の頃だったら、言ってくださいと無理にでも言わせたのかもしれない。僕も大人になったなとその姿を見なかったことにするのだ。
いつかはくる。別れようという言葉が開きかけた口から発する日を僕はずっと不安に思っているのだ。
付き合っているとはっきりしたものではないはずなのに、数年前に唇を合わせた時からその回数が増していった。
早く言ってしまえばいいのにと僕は思いながら胸を痛めている。
鈍い風丸さんは気付いているのだろうか。
 
「風丸さん、お誕生日おめでとうございます!今日も1日練習だったのに時間作ってもらってすみません」
大きな歩道橋の上で僕は風丸さんに誕生日プレゼントを渡した。中身はブレスレットだ。
「こっちこそ、いつもありがとうな。お前くらいだよ、今もこうして律儀に祝ってくれるのは」
風丸さんは宮坂の頭を撫でた。そんなことないですとえへへと笑った。撫でてもらえるなら、喜んでもらえるならこれからも祝いたい。すると、風丸さんの顔が近づいていく。キスかなとそっと目を閉じると、宮坂と名前を呼ばれた。
「はい?」
目を開けるとまたいつもの口が開いて閉じようとしてる。ああ、期待した今の一瞬がスッと胸の奥へと落ちていく。
「言わなくてもいいですよ」
宮坂はそういって爪先立ちをして、風丸さんの唇に触れた。そっと触れただけ。それだけで十分な幸せだ。
風丸さんは自分の唇を触り、それから口を開いた。
「……宮坂きいてほしい。オレは」
言わなくても、いいといったのに。目尻に溜まりゆく涙が分かる。きいたら答えなくてはいけないのに。
「オレはお前が好きだ。今まで言わずに、その……ごめん。だから今度は恋人としてオレとキスしてくれないか」
思っていたことと違った。その瞬間に間抜けのように腰を抜かしてその場にへたりこんだ。
「宮坂!?大丈夫か!?」
風丸さんは驚いてしゃがみ、宮坂の顔を覗いた。
「あ、はは、こんな腰抜かすなんて本当にあるなんて……」
泣いてしまう。ポタポタと流れていく涙が支える風丸さんの腕に落ちる。汚してしまって申し訳ない。そう思いつつも流れる涙は抑えられない。
「やっぱり無理か?オレが恋人というのは」
「な……!?無理とか!?……無理なら今までだって、さっきだってキスなんかしないです!」
僕はムッと風丸さんの顔を睨むと安心したかのような表情をした。その表情が憎らしくて嬉しくて、愛しい。
好きだ、ただただ積もりに積もった感情が好きとしか表現できない。
「……キスしたらいいじゃないですか」
これだけ顔が近いんだからと僕は目を瞑った。そうだなという風丸さんの呟きと共に唇へと触れる感触にまた1つ涙した。



20210201




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