まだない【一彩と藍良】あん☆



オフの日に、アイドルのブロマイドやグッズを買いにショップへ行った時だった。
「うーん、やっぱないかー」
と若い女の子がガックリと肩を落としていた。
「そりゃーついこの間アイドルになった子だしまだブロマイドとかはないよー」
連れらしいもう一人の女の子が肩を叩いた。
「たまーに昔は別名でやっててーみたいなのあるでしょ?お兄さんは数年前からアイドルしていたみたいだから弟の一彩くんも可能性あるかなーと思ったんだけどなー」
藍良は知っている名前が出て帽子を目深に被った。バレないようにそっとその場を後にした。
パタパタと早歩きしているせいなのか、ドクンドクンと心臓が痛かった。
(ヒロくんのファンの子をあの店で初めてみた)
アルカロイドは今年結成したばかりで、まだまだ新人アイドルだ。だから、ああいった店でグッズを取り扱うことはない。値段をつけられる程の価値のあるアイドルだと世間から認知されてるとは程遠い。藍良は足を止めた。
「ヒロくんのグッズを求めているファンがいる」
それは大変嬉しいことだし、同じ仲間としてすぐにでも電話して報告してやりたい。でも、モヤモヤする。
「藍良?」
一彩の声がすぐ目の前から聞こえてビクッと身体が跳ねた。
「えっなんでヒロくんここにいるの?!」
「なんでってここ寮に帰る道だろう?」
言われて辺りをみるといつの間にか本当に寮の近くまで戻ってきたらしい。
「……考え事してたから気付かなかった」
ハァとため息が出た。すると、一彩が顔を近づけてきた。格好いい顔がすぐ目の前にあるのは慣れてるとはいえ毎回驚き目を逸らしてしまう。
「藍良、あんまり考えすぎるのはよくない。僕に話してくれないか」
「いや、それは出来ない……」
「……そうか」
一彩はくるっと前を向いて寮へと歩きだした。
(ヒロくんごめんね、今は言いたくない)

歩き出した一彩を眺めながら藍良は地面を見つめた。堂々といつだってみんなと一緒に隣を歩けるようになりたい。ギュッと手に力が入る。藍良は一歩大きく足を前に踏み出して、一彩の後を追った。



20201229





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