喧嘩してない【照吹】



※付き合って同棲してる




初めて喧嘩した気がする。
吹雪は重い足取りでマンションへと歩いていく。
喧嘩といえるのかといえばそうじゃないかもしれないが、自分にとっては朝の『いってらっしゃい』がすごく痛く聞こえた。帰るのが億劫になるのは付き合い始めてから初めてかもしれない。いつもは早く帰って照美に会いたい方だ。
「吹雪くん」
後ろから声をかけられてビクッとした。振り向くと整った顔立ちが美人な照美が立っていた。
「あ……今帰りだったんだね?」
「うん」
照美が歩き出すので、吹雪は後ろからついていく。
どうしようと考えながら、ふとあることに気付いた。大体は吹雪より照美の方が先に家にいることが多い。いつも先に帰っていて、『ただいま』と言ってくれる。そして朝は吹雪の後に出ることが多い。『いってらっしゃい』と声をかけてくれる。
それがすごく好きで大切だった。誰かがいる家が僕にはある。待ってくれる人がいる。だから早く帰りたいと駅からマンションへの道はトレーニングも兼ねて走っていたのだ。
なのに今日は歩いてしまった。
「照美くん」
吹雪が前を歩く照美の手を取った。照美は足を止めて振り返る。
「なんだい?」
優しい声音に泣きそうになる。ああ、好き。喧嘩しただなんて、そんなわけない。
「昨日はごめんなさい……嘘をついて」
「いいよ」
照美は周りをチラリとみてそっと吹雪を抱き締めた。3秒だけ。腕が離れていきながら、吹雪は見上げて照美にいった。
「僕は今も寂しい。だから、今日も僕を満たして」
照美は喜んでと耳元で伝えた。




20210114





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