忘れる



引っ越しの準備をしていると懐かしいものが続々と出てくる。初めて社会人として働き始めた時に使っていた定期入れ。無くしてから面倒になって乗らなくなった自転車の鍵。大学の追いコンで渡された造花。コーンと床に落ちたのはシルバーの指輪だ。
「これって……ああ」
1度しか嵌めることのなかった指輪。大学の頃、付き合っていた彼氏に卒業式後にもらった指輪で、失くしたら困るからと彼と会う時以外は付けないと決めていた。
最後に付けたのは、社会人になってからようやく二人が会えたGWの最終日。
「別れよう」
そう切り出した彼は指輪をしていなかった。ペアリングだから彼も持っていたはずだ。その日は私だけ付けていたのだ。
どうしてと反論しなかったし、そっかといって別れた。
未練もなかったし後日浮気をしていたと共通の友人に言われたときもやっぱりなあと思った。
彼は何を思って私を繋ぎ止めようと思ったのだろうか。
こんな安っぽい指輪1つで私を自分の物だと周りに教えたかったのだろうか。馬鹿みたいだなあと、一瞬でもあの時喜んでしまった私を笑う。
「指輪自体に罪はないけれど、彼の罪を着せるね」
私はそういってゴミ箱に向かって放り投げた。
指輪はカーンという音ともに綺麗にゴミ箱に収まる。
「ナイスシュート!わたし!」




20201218




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