【続きは夜で】
試合中は友人だろうと恋人だろうと関係ない。「ッしつこいね!」
「…きみもどこまで走っていられるかな?」
ボールを取り合って走りあって、試合は残り10秒。ピーッと高い笛の音と共に取り合っていたボールは一人でコロコロと転がっていく。
息が乱れたまま照美は吹雪の肩を抱いた。
「続きは夜で」
【抑えられない】
「ごめん」と、いえば誰の気が済むのだろうか。
「やめて」と「僕の名前」を何度も繰り返す。
自分でも止め方が分からないし、涙と赤らめた頬と熱を持った息に加速をかける。
あとでどう謝ろうかと、吹雪の髪を触る。
すると、ビクリと身体が震えおそるおそるこちらの瞳をじっとみる。
ああ無理だ。
【指輪が欲しい】
なにかほしいものをあったら送るよと電話越しに言われて、咄嗟に先程まで考えていたことをぽつりと出てしまった。
「……君はそういうものを欲しがる人だとは」
「いや!?違う!……えーっと、そう!じゃあドーナツ!」
苦しすぎる言い訳をしてしまった。吹雪がどうしたものかと言葉を続けようとするも、照美はそれを遮った。
「あっごめん、監督に呼ばれたから行かなきゃ。また連絡するね」
「あーうん、じゃあ……」
電話を切って、吹雪は大きくため息をついた。
指輪がほしいだなんて思ったこと、ないはずだった。
女の子はそういうものが好きだろうが、僕は目に見えて他人に分かるものが嫌だった。それが無くなれば、そうではないと分かってしまうから。
「あの反応は呆れられちゃったかなあ」
今更欲しいのかと思われたのだろうか。恋人かどうかもよく分からないが、とりあえず両想いだねって関係を続けて1年は過ぎた。いつでもやめてもいいのに、やめられない。
「指輪が欲しいほどに」
と、スマホの通知がきた。
「今度そっちに戻ったら贈るね」
ドキリと跳ねた。贈るのはドーナツではなくおそらく指輪だ。
「次あったらなんて、いえばいいかなあ」
20201014
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