人は褒められるととても嬉しい。自分の行いは間違っていなかったと確認出来るし、その努力も認められたと感じるからだ。
「すごいよ」
彼はそう褒めてくれた。いつだってそう褒めたのだ。
だがその時ばかりは、褒めたのではなかった。喜びに満ち溢れたものではなく、悲しみばかりが地を這うように足元を邪魔した。
私の手には彼の手ではなく、別の誰かの手。愛する者の手がある。
「すごいよ」
その言葉の裏側には常に長年の想いが滲み出ていて、私が目にした時には触りたくない色になっていた。
ごめんなさい、と返せばよかったのか。素直にありがとう、と返せばよかったのか。張り付いた表情は動かすことが出来なかった。
「すごいよ」
(君のことはもう諦めるよ。さようなら)
20190809
prev next