写真【円グラ】



 救われたと思った。気になってつい目で追いかけてしまう自分がいた。父さんのためにグランとしてサッカーをして、敵である君に出会うなんて運命じゃないかと君を見つめながらにやける自分がいる。
 父さんのためにと蹴った黒いサッカーボールは、君に止められて動揺していく。自分を削り、痛みを感じても蹴り続けたサッカーボールをウルビダは父さんに向けて打つことが出来なかった。
「父さんだから」
と泣いた彼女は、自分と同じく父さんのためにサッカーしていたはずだ。だが、父さんには受け止められないのだ。このサッカーボールは、彼女の思いは父さんを傷付けるから。受け止められなかった父さんは滅びゆくグランドと共にしようとする。
「君はそれを止めてくれたんだ」
 電話の音に目が覚めて、ヒロトは目覚まし時計の時間を確認する。息を一つ吐いてゆっくりと起き上がる。
 ほんの少し前の出来事なのに、何度も夢にみてしまう。一連の騒動は、結果父さんとしばしの別れとなってしまった。悲しくもあったがそれ以上に周りの悲しむ姿にどうにかしなくてはという気持ちになった。父さんが戻ってくるまでに、また平穏なお日さま園に戻したかった。
 
「ヒロト、電話。円堂くんから」
 瞳子が扉から顔を覗かせる。ヒロトは途端に輝いた表情になり、すぐ行くといって、バタバタと電話へと小走りになる。
 今のタイミングで電話ということは、きっと明日の日本代表選考会のことだろう。円堂はたまに電話してくれる。嬉しかったことや今、やっている練習だとか他愛のない話ばかりだ。
 どうしてオレに電話してくるのだろう。解決したとはいえ、わだかまりは少しはあるようなところだがと瞳子に話した。
「それは円堂くんだからよ。一緒にサッカーしたら、彼にとってはみんな友達……仲間だと思っているのかもね」
 瞳子はクスクスと笑っていた。姉さんがこんなに明るく笑うのはいつぶりだろう。彼の傍にいて、彼のサッカーをずっとみてきたことで姉さんもサッカーを楽しむことを思い出した気がした。

「もしもし、お待たせ。どうしたの円堂くん」
「あ、ヒロト!! 明日はいよいよ日本代表候補が雷門に集まるんだ! どんな奴が集まるんだろうな――」
 声だけでとても楽しみにしていることが分かって、クスッと笑い声が出てしまった。
「ん、どうした?」
「いやあ、オレも楽しみだよ」
「それってどういう……」
 当日までの秘密だよと言いかけて、じゃあねと電話を切った。胸に手を当てると、ドクンドクンと音を感じる。円堂の胸の高まりが伝線したかのようだ。でもきっとこの音は君とまたサッカーが出来ることが何より嬉しい。早く会いたいとヒロトは電話の受話器をゆっくりと撫でた。
「今度会うときは、正真正銘のオレとしてサッカーが出来る」



 代表選手が決まって、無事に円堂と共に日本代表としてプレーできることが決まった。決まった後に全員で集合写真を撮った。中心で笑う円堂がとても眩しい。写真は選手全員に配られて、ヒロトも受け取って円堂の顔をなぞった。
 君は知らないのだろうなとヒロトは窓の外をみると、声が聞こえてくる。窓を開けてみると、円堂が豪炎寺と共にまだ練習をしていた。じっと見ていると、こちらに気付いたようで、円堂が大きく手を振った。
 ああ、胸が痛い。
 ヒロトはニコリと笑って、胸を押さえていない方の手で振り返した。それをみて、円堂は二カッと笑う。もうとっぷりと真っ暗なのにグランドを照らすライトにだって負けないくらいの光に見えた。
「ごめんね」
 宇宙に還った君を想う。父さんのためと言いながらも結局は自分のサッカーを選んだ君はオレを恨んでいるだろう。
「でも大丈夫だから」
 円堂の光によって照らされた道を歩んでいけば、君はずっと後ろにいる気がするから。だから、オレはお前を還す。

 サッカーを大好きな宇宙人はもうそこにはいなかった。




2018115




prev next








×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -