10年後くらいには【牙ノボ】BF



「ノボルはいらないけど」
サラッと言われた言葉がなかなか離れないでいた。
「当たり前だろ」
鼻を鳴らしてノボルはぼそりと呟いた。自室にゴロンと寝転んで天井と向き合った。あのデカイ奴を騙すとはいえ、自分でもさらさらとあんなことが言えるとは思わなかった。牙王はオレが言ったことを本気では受け止めてはいないだろう。しかし、『いらない』と言われたことはどうしても引っかかる。歯と歯の間に鶏肉が引っ掛かっているみたいだ。
「どうしたんじゃ、タイガーボーイ。どこか具合でも悪いのか」
エル・キホーテがいつの間にかカードから出ていた。ノボルはチッと舌打ちしてなんでもねーよと枕に顔を埋めてうつ伏せになる。
「なんじゃ、人が心配しとるというのに。いやしかし昨日のタイガーボーイはなかなかのボディだったなあ。わしの昔のガールフレンドを思い出したわい」
エル・キホーテが嬉々とその当時の話をし始めた。ノボルは全く聞かず、枕の隅をギュッと掴んだ。
いらないと言われたくないということは、牙王にほしいと言ってもらいたかったのだろうか。顔が一気に赤くなって、手足をバタバタする。
「本当にどうしたんじゃ。まだ筋肉痛が痛むのか」
エル・キホーテは心配そうな顔を覗かせる。ノボルは歯をギリッと噛んで、エル・キホーテを見つめる。
「そんなとこだ!ちょっと外の空気吸ってくる!」
ノボルは立ち上がってバタバタと部屋を出ていった。
「青春じゃのう……」
エル・キホーテは自分のひげを触って微笑んだ。


ホテルの中庭に出てベンチへと座る。高い空には星が一つも見えない。
「あ―――何がしたいんだ、オレ……」
心配するエル・キホーテに当たったのは悪かったなあとノボルはぼーっと何もない空を見上げた。
欲しいと言ってもらいたい。そうじゃない。
オレだって牙王と結婚なんてごめんだ。それよりもしたいことがあってここまで追いかけてきたんだ。だけどいらないといわれたくはなかった。
「わっかんね―――」
「何が分からないんだ?」
いきなり牙王の顔が現れたので、わっと驚いて飛び上がって、ガチンとおでことおでこが当たった。
「「いってえ」」
二人ともおでこを抑えてしゃがんだ。
「なにすんだよ!ノボル!」
「そっちがいきなり顔を出すからだろ!!……ああいてえ」
ヒリヒリとするおでこを触り手をみると、ほんの少し血がついている。ぶつかった衝撃で元々あった小さなニキビがつぶれたのである。牙王をみると、オレのおでこから血が出ていることをみつけたのか顔色がどんどん悪くなる。
「ノボルッ……!!ごめんオレッ……!!」
予想以上に深刻な顔する牙王にノボルは少し驚いてから合点した。ああ分かった。コイツまだあのときを引きずってるんだ。空手の授業でオレを下した時の事を。
牙王が誰か呼びに行こうとしようするのを腕を掴んで引き留めた。
「大丈夫だ。こんなんすぐ止まるし、大体ニキビがつぶれて血が出たんだ。お前のせいじゃない」
牙王の視線はあっちこっちいっていたが、ノボルの瞳をみると自然と落ち着いていった。と、牙王は掴まれた腕をグイッと引いてノボルを抱きしめた。
「お、おいがお……」
「本当だな……?ノボル」
抱きしめている手が震えている。こんなにもトラウマになっていたのか。思った以上に深い傷だったとは知らなかった。
ノボルはその手に触れようとして、ひっかかっていたものがフラッシュバックされた。
「だ、大丈夫だから離れろ!オレと別にいたくないんだろっ!」
ノボルはベリッと無理矢理牙王を引きはがした。
ぽかんと口を開ける牙王をみてプイッとそっぽを向いた。
「ノボル……?」
うっすら涙が込み上げてきた。違う。そんなこと言いたいんじゃない。
心地よい風が頬を冷ます。熱いから、泣きなくなるだけだ。ノボルは悟られまいと振り向かない。数秒間、二人とも喋らずその場に立ち尽くした。それから牙王が口を開いた。
「なあ、ノボル。オレ、今日お前に叫んで応援された時、とっても嬉しかったんだぜ。言うのはちょっと恥ずかしかったんだけど、お礼しなきゃと思って。オレだってお前とこの舞台でファイトしたかった。だからお前の気持ちきいた時、オレと一緒なんだってすっげえ嬉しかった!」
「……」
ノボルは何も言わないが、構わず牙王は続けた。
「ノボルが女になったとき、オレと結婚するって嘘ついた時、嫌だと思った」
ドキンと胸が跳ねた。バクバクとしながら牙王の方をそっと振り返る。
「だってオレたちライバルだもん。隣にいてほしいより、こうやって向き合ってファイトしていきたい!」
牙王はへへんと満面の笑みを浮かべて、頭の後ろで手を組んだ。
「……オレだって、オレだってそうさ!牙王、お前のライバルはこのオレ様さ!そんで、お前はオレの認めた最高のライバルだ!」
ノボルはそういって笑った。胸につっかえていたものがストンと落ちていった。
牙王の隣じゃなく、こうやってお互いに顔が見える位置にいたい。
「がお――――!!」
足音を立てながらバルが牙王の元へと駆け寄っていく。
「それに今オレの隣にはこいつがいるからな!」
「何の話バル?」
バルが不思議そうに牙王の顔をみる。
「牙王、お前バルと結婚するのかよ」
「ち、ちが……!?」
「フフッ、ハハハハハッ!!」
なんだかおかしくなってノボルは笑い出した。バルもなんだか分からないけど笑うバルとつられて笑い出す。
「ノボル―――!!バル―――!!」
そういって怒る牙王も顔は笑っていた。



20161101




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