月の光より【蘭マサ】



月の光が暗い道を照らしていてしっかりと霧野の顔が見える。きっと真っ赤な顔が見えているだろう。すぐに俯こうとすると、グイッと顎を上げる。
「もうしっかりみてるから」
恥ずかしがることはないと言いたいのだろう。けれど、そんなこと言われても身体は熱くてその場で足が崩れ落ちそうだし、顔は反射的に霧野の顔が見ようとしない。
「どんなにされても慣れないです……」
付き合ってからの何度目かのキスだった。いつからか数えるのをやめてしまった。霧野は随分キスをすることにハマってしまったようで、どうすればもっと面白いかといろいろ試してくる。試される相手の身にもなってほしいのだが、やめてくれとは言えない。
どんどん気持ちよくなっていくのが自分自身一番よく分かるからだ。
息継ぎも慣れても霧野の顔を見ることが出来ずに、空を目が泳ぐ。
今日は満月だった。
「だって今日こんなにも明るくて、恥ずかしいじゃないですか」
「だがお前は結構こういうシチュエーション好きだろ、夜の星が見える中でするの」
「べっ別に好きじゃないですよ!ただ……どこまでも夢心地な気がして」
霧野は狩屋の背中をそっと引き寄せた。トントンと背中を叩くとうっすらとした一番古い記憶が浮かぶ。
「父親が昔、真夜中にこんな月の明るい日に人がいない道を歩いたような気がするんです。知っている道なのに月で道が照らされても無性に怖くて…………」
霧野は今度にゆっくりと頭を撫でる。優しい掌の感触が伝わってくるようだった。
「なんで怖かったんですかね、」
少し声が震えてしまう。目に涙が溜まって溢れそうになる。続こうとした言葉が出てこない。霧野が狩屋の顔を覗く。霧野は目を逸らさない。この人はいつもそうだ。目を逸らすことを知らないみたいだ。
「キスしていいか」
「なんできくんですか」
「なんとなくだ」
「いいに決まってるじゃないですか、むしろ」
「むしろ?」
たまにずるいこと言うのは、ただの素だ。ずるい。
「キスしてくださいよ」
上唇から触れて下唇へ、息が止まるような5秒間の後に、吸い付くかのように自分の唇と狩屋の唇を何度も重ねる。いやらしい音が夜に響く。
「大丈夫だ」
霧野はそう呟いて、またキスをする。今度は舌が入ってきて、絡ませる。首筋を汗が一つ、また一つ流れていく。
「せんぱっ……んっ!」
深く求めてくる霧野に狩屋は負けじと答えていく。霧野の腕を狩屋はがっちりと掴んだ。そうでもしないと倒れてしまいそうだ。
「んっはあ…はあ…」
目が閉じかけそうになると、ペチッと頬を叩かれた。
「今日はオレがいるから夜だって怖くないから目を開けろ。それにオレだけ見てれば夜だろうと関係ないだろ」
「なんていうセリフ」
狩屋は思わず目をぱちくりさせて霧野をみた。
月がどんなに綺麗で道を照らしていても、こんなに自分を見てくれる綺麗な人は他にいないやと狩屋は目を逸らさずに自分から霧野の唇を触れた。
大丈夫だと好きな人に魔法の言葉をかけられたら、何も怖くないと思えた。




蘭マサワンライ。お題「夜空」
20160630




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