まちぶせ【蘭マサ】



なんとなくここが自分いつも座る場所になっている。ホームの階段から少し歩いて4番目のドアから入り、二人掛けの椅子の壁側に座る。
スマートフォンを操作して、流行っているゲームをすることが朝の日課になりつつある。
毎日もらえるログインボーナスを手に入れて、体力が尽きるまでレベル上げでもしておくかと、カチカチしていると、いきなり画面が遮られた。
「お前、そういうのほんと好きだよな」
ムッと顔を上げると、桃の香りがしそうな髪が揺れて隣に座った。オレとは違う制服を着たセンパイはスマートフォンの画面を覗いた。
「どこが楽しいんだ?」
「センパイには分かりませんよ。RPGは好きじゃないでしょ」
初めて興味を持った時は、すごく嬉しくて懸命に進めてみたが、結果は三日坊主にも至らなかった。なんでそうなるか訊くと、忘れてしまうからだそうだ。大雑把なセンパイらしいちゃらしいけれど、もしかしたら同じ話題で盛り上がれるかもと思っていた自分に呆れてしまった。
「まーそーだけど、お前がオレがきたことに気づかないくらい熱中するのだからどんなもんかと思ってな」
さらっとこういうこと言うから女子は簡単にセンパイを好きになるんだ。オレはもう慣れたけれど。と思いながらため息を落とす。ため息したのは決して心臓の音を誤魔化すためではないと自分を納得させる。
「楽しいというより時間つぶしですね、それに最適なだけじゃないですか。でもうまくいくと、ランキング入ったりしていいアイテムとか仲間が手に入ったりするからそこは楽しいですが」
「ふーん」
視界に入るピンクが鬱陶しい。ゲームをするのを諦めてスマートフォンをポケットにしまった。
「最近は一緒じゃないんですね、もしかしてフラれたんですか」
「ん?ああ、あいつ生徒会に入ってさ、挨拶運動や行事の準備やらで朝が早くなってな……。オレに合わせて電車だったからそれだと余計大変だから車で通学するようにいったんだ」
センパイは頭を後ろにのけ反らせて、窓にコツンと当てた。
きっとセンパイはそれも支えたかったんだろう。今までもそうだったように。だけど、そうしなかったのはあの人のことを思ってのことだ。
名前を出さなくても成立してしまうほど、センパイも、そしてオレもあの人の存在は大きい。
「なあ、狩屋」
「ちょっ、なんですか、よっかからないでください」
センパイはオレの肩に頭を乗せた。顔の横に流れる一束が顎の下にあたりこそばゆい。思わず体がビクリと反応する。
「眠いからオレの着く駅になったら起こして」
「嫌ですよ!その前にオレの方が先に降りるんですから、無理です!」
「え―――」
「……センパイ、もしかして寂しいですか」
オレがいうと、センパイは頭を上げた。
「いや、全く」
全く大丈夫そうでない声で言う。オレはその反応に持ち前のイタズラ心が動いた。じーっとセンパイの顔をみるが、全くこっちをみない。オレはクスリと笑った。
「嘘でしょ、へえ――神童センパイがいないだけで、オレに頼るんだ――― へえ―――」
そう言うとセンパイがこっちをみた。目がガチで怒っていた。電車のアナウンスが聞こえ、次の駅でオレは降りなきゃならない。煽りすぎたかと思い、そそくさと立ち上がって、ドアの方へ行くと、オレの腕を掴み、耳元でこういった。
「お前が寂しいんだろ」
開いたドアを向かせてポンと背中を押した。
「また明日もここで待ってろよ」
とセンパイはニコリと笑って電車は動き出した。
電車が完全にホームからいなくなるまで、オレは動けなかった。
「知ってたんだ、センパイは」
オレがセンパイとあの人が座る場所に座っていたことバレていたんだと今分かって余計に顔が赤くなった。


20160517
蘭マサワンライ。お題「まちぶせ」




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