切なくて嬉しい【高校生蘭マサ】



霧野はふと考える。自分の横を楽しそうに通り過ぎていく中学生たちを見ながら、昔の自分を思い出すのだ。何も考えてないひたすら前をみることに必死だったことを、ああそうだったと苦笑いする。だから気付かなくて何度も、数え切れないほど彼を傷付けたのだろう。
中学の卒業式で泣きそうになる顔を今でも鮮明に覚えている。彼はずっと何かを言いかけそうで我慢していた。いや、我慢させていたのだ。オレに迷惑かけるからと溢れそうになるのを無理矢理抑え込んで、泣き目になるくらいに。それをオレは笑っていた。
きっとそれが嬉しかったのだ。自分を必要としてくれることが嬉しかった。だから手放したくなくて、答えを言わない。言いたくないと頑なになっていった。
そこで狩屋が諦めてくれたらよかったのだ。だが、彼は変わらなかった。
たまに会うとそれを実感して、素直になれないのはどっちだと足を叩く。彼の笑顔に救われて、前を向けたと分かって、自分はなんて最低な奴だと空笑いして、それでもまだ認めたくなくて。
「お前の泣いた顔が好きだよ」
「最低ですね、センパイ」
知ってる。勢いでキスしてとても怒られた。当たり前だ。自分でも怒る。どうも狩屋の前だと自分が自分じゃないみたいに思う。
ごめんなと何度言ってしまったのだろう。突き放したのだろう。
足は重くなっていく。でも意地でも行かねばならない場所がある。
雷門中の校門をくぐると、サッカー部しか使わないグランドがある。そのグランドを見下ろす狩屋がいる。出会った頃より随分背が伸びた。自分に並びそうで少し怖い。
「狩屋」
「あ、センパイ逃げなかったんですね」
「当たり前だろ」
にやりと笑い、おちょかす。これが狩屋にとってのコミュニケーションだ。
「じゃあ、言ってくれるんですか」
狩屋はニヤニヤと笑い、霧野に近付いていく。霧野はその瞬間、狩屋の腕をとらえて、引き寄せた。そして狩屋の唇に自分の唇を当てる。寒い中、ずっと霧野を待っていたようで、ひんやりとした感覚がして思わず掴んだ腕に力が入り、抱きしめていく。逃がさない。
唇から離れると泣きそうになる狩屋の姿が目一杯に映し出される。
「……最低って前にいいませんでした?」
「いった」
「じゃあなんで、」
「最低なオレがお前を好きになってもいいか。愛してもいいか。きっとお前を幸せにすることはオレにはできない。今までだってお前を苦しませたから。苦しい思いをするかもしれない。だけど、お前が好きなんだ。お前がオレには必要で、一緒にいてほしいんだ」
霧野は狩屋をきつく抱きしめる。自分の本気が狩屋に伝わりますように。
ドクンドクンと心臓の音が早くなっていく。これは自分のものだろうか、それとも。
「霧野センパイ、苦しいです」
狩屋に言われてゆっくりと腕を緩めてく。こんなに緊張したことがない。ああ顔見たいけど、見たくないな。狩屋はなにも言わない。顔が見れずに下を向いてると、手が震えていた。
もう逃してはいけないんだ。霧野はグランドの方へ振り返って、大きく息を吸った。
「狩屋――――――!!!!お前が好きだ―――――――!!!愛してるぞ!!!」
「ちょっ先輩!いくら人がいないからって!」
「狩屋がいったのだろう?大声でこのグランドの前で言ってくれたらきいてくれると」
「冗談も通じないんですか!?」
「だって何も言わないから。狩屋、返事は?」
霧野は手を差し出す。
「はいと答えればいいんでしょ!」
狩屋は声が震えながらも霧野の手を取り、そのままぽたりぽたりと泣き出した。
霧野は思わず笑ってしまった。




蘭マサの日記念
20160322




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