嫌いの嘘【蘭マサ】



「今更だ」
呟いた瞬間、息が苦しくなる。上を向くことができずに暗い色をした地面を見る。あれは本心ではないと自分に言い聞かせる。今、あの人の隣にあの人がいないからそう思うだけなんだと。あの人は嘘つきなオレに嘘をついたのだ。きっと違う、だからあんなことを言った。

知りたくなかったのだ。今のままを望んだのだ。それなのにセンパイは足を踏み入れてきた。
「嘘って痛いもんなんだな……」
狩屋はその場にしゃがみ込んだ。明日はどんな顔して会えばよいのだろう。
ジャリジャリと後ろから足音が聞こえてくる。そしてオレの後ろで止まる。通行の邪魔なのであれば横を通ればよい。別に通れないわけではないのだから。オレは後ろにいる人をわかっている。
「前にお前が一人じゃないようにと願ったことがある」
怒っているわけでも泣いているわけでもない穏やかな声が耳に届く。
「オレがいてもいなくても一人じゃなければ、笑ってくれたらと思ってそう言った。でも、やっぱりオレがお前を必要としていたんだろうな。神童といる霧野蘭丸じゃなく、オレをオレとして見てくれる。自分を振り返るなんてしてこなかったオレにお前によっていろいろ気付かされたんだ」
耳を塞ぎたかった。都合のよい言葉は全部嘘だと思いたかった。なのに、センパイの声は本当なのだ。嘘の色を帯びず本心しかそこにはない。羨ましいくらい、妬ましいくらい。
「お前が大切だから、あんまり自分を傷つけるのはやめろよ」
狩屋は急に立ち上がって後ろを振り向いた。
「簡単に言わないでください!!誰のせいで、誰のっ――……!!」
グッと涙をこらえたせいで言葉が詰まる。霧野は驚いた顔してそのあとに申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんな」
「だから、アンタは嫌いなんです!大嫌いなんです!!」
ああだから、涙が落ちてしまう。嘘もつけなくなってしまう。
霧野は優しく頭を撫でて、そして抱き寄せた。霧野の手の感触と温もりがさらに涙を一つ二つと増やしていく。やり場のない想いに両手を強く握る。
「大丈夫だ、オレを嫌いなお前は好きだから」
全部分かっているようで分かっていないセンパイはそう呟いた。



20160226
蘭マサワンライです。




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