言えなかった、それだけ【大人照吹】



もうこの部屋にいないと思うと涙が溢れていくように感情が部屋に散らばり吹雪の足元を埋めていく。
「さようなら」を決めたのは照美だけのせいじゃない。僕も最後には頷いた。
「今更だよね、こんな想いも」
すれ違っていくというより、最初から知らなかったのだ。知ろうと努力をしなかったのだ。忙しいを理由にして、または自分の想いだけをぶつけるだけで、照美の想いを知ろうとしたことがあったのだろうか。
吹雪は散らばった感情を片付けることもせず、足を引きずってベッドへと向かう。鉛でも入っているくらい重い足に違和感がある。
練習したあとってこんなに疲れるものだっけ。
ゆっくりと少しずつ、少しずつ足を動かし、ようやくベッドにたどり着いてそのまま体をベッドに倒す。体の節々が痛いというと同時に足の重みが少し緩む。
愛を育んだこのベッドも今はもう北海道の雪のように冷たい。その冷たさが過去の自分を呼び起こす。決して消えたわけじゃない、アツヤが同じように倒れてこちらをみている。その顔は情けないなとあざ笑うかのようだった。
「なあ、兄貴はなんでそんなにつらいの。納得したんだろ」
「…………」
吹雪はシーツをギュッと掴んだ。頷くだけでも苦しい。
「じゃあ、そんな顔するなよ。お前がそんな顔して一番悲しい顔するのは誰だ」
「…………」
アツヤから目を逸らした。ふと自分の手を見て思い出す。ついこの間までのこと、照美が隣で寝ていることが信じられなくてそっと唇に触れようとして、触れなかった。あの時触れていれば何かが変わっていただろうか。自分の手で唇に触る。何度もキスしてくれたあの感覚は嘘じゃない。
「辛いよ、つらいよ、アツヤ……どうして僕たちは別れなくっちゃいけなかったんだろう。だって僕はこんなにもまだ照美のこと好きで後悔していた。照美だって……照美だって、まだ僕を好きなはずだ」
「兄貴、兄貴は何を信じる?オレを信じるか?それともアイツのことを信じるか?」
答えはすんなりと分かった。ゆっくりと涙がシーツに落ちる。熱さが手へと胸へと高まっていく。吹雪はバッと起き上がって、携帯電話を取りに玄関へと走った。冷たい廊下に足裏は痛いと悲鳴を上げる。途中で何かに躓いて転んでもすぐに立ち上がった。
照美になんで全部言わなかった?なんで訊かなかった?今すごく君の声が訊きたい。教えてよ!!
ようやく玄関にたどり着いて、ガサゴソと携帯電話を取り出した。
そのとき、ガチャリと玄関の扉が開いた。
照美は今まで見たことないくらい表情で吹雪をみる。
「吹雪くん、電気もつけずになにやって……」
「照美くんだーーーー……う、ううわわぁあん!!」
吹雪は呻くように泣き出した。まるで子どものようだった。
暗い部屋に差し込んだ外の明かりに照美の姿がまぶしくて、ああ夢かもしれない、照美は人間じゃないかもしれないそれでも。
「と、とにかく部屋の中に入ろう、ね?」
照美が玄関口の明かりをつけて玄関のカギを閉めて振り返ると、吹雪が抱き着いてきた。
そして照美の唇を塞ぐ。温かい感覚がじんわりとさっきまで熱くなった自分の唇になじむ。舌を入れようとすると、照美は受け入れてくれた。クチュクチュと音が漏れる。吹雪が好きなキスの仕方だと照美に前に教えたからだ。ああ気持ちいい。
「拒否しないの、別れたのに」
「別れたのにね」
照美が眉をへの字に曲げて笑う。ねえ、
「今どんな気持ち?僕に教えて」



20150112




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