君以外も大事だけど【照吹】



告白したことがなかった。そんなことをしなくても相手はいくらでもいたのだ。だから、半ば強制的に告白したからあれは本当に告白だと言えるのか、ただの勢いだったのか今じゃ分からない。
けれど言えることが一つだけある。
君が大事だったことは嘘じゃない。


試合で再会して懐かしい話をして、夜の都合を訊かれて打ち上げがなければ暇だと答えると抜け出さないかと言われて、大きな河川の横を散歩したまでだ。周りからしたら彼女だと思われただろう。チームメイトからももう新しい彼女出来たのかと冷やかされた。
他愛もない話が続く。照美と直にこんなに話すのは初めてだった。
僕はうんうんと相槌を打つ。ライトアップされた河川にかかる大きな橋がとても綺麗なのに前を行く長い髪をした彼はもっと綺麗にみえた。
彼が男でなければ、僕からキスをしただろう。そして一緒に朝を迎えただろう。女の子は好きな方だ。僕の過去の話をすると憐れんだ目でみて慰めてくれる。僕が相手を好きでなくても相手は僕を求めてくれる。そして空っぽのなにかを満たしてくれるのだ。すぐに砂のように落ちて、相手は僕の元を去る。砂は砂糖のようにならない。仕方ないことだと一人の夜を耐えるのだ。
そんなことを考えていたのが、みえたのかはたまた無意識に呟いてしまったのか照美はそっと僕の唇に触れた。温かさを感じさせないくらいの一瞬だった。柔らかい感触だけが唇に残って、ハッとして顔を見上げると、照美は優しく笑った。ゴクンと唾を呑んだ。言いかけた言葉も呑み込んだ。照美はもう一度キスをした。今度は熱も伝わるくらいの長さで、頭を引き寄せられ、右手に触れられた。そのままギュッと照美の手を掴んだ。
息を続かなくなりそうだと思うタイミングで、照美はゆっくり唇を離した。
「どう気持ちよかった?」
先程と変わりない笑顔で彼は訊ねてくる。実験台にされた……?
コクンと頷くと、嬉しそうに彼はスキップしていく。
「負けたの悔しかったんだ、今日の試合」
スキップしていた足を止めて、吹雪の方を振り向いた。吹雪は手で口を抑えている。
「だから、噂の女好きイケメンサッカー選手がこんなことされたらどうなるかなと」
照美は吹雪の元に駆け寄ると、吹雪は思わず後ずさりをする。すかさず逃げないように、吹雪の手を取った。吹雪はその手を振り解けなかった。
「最後までいってみるかい?」
ちょっとそこまでみたいな軽いノリで言う。照美くんってこんなに軽いキャラだっけ。今までのイメージとは違っていて、吹雪は頷かなかった。
「君はそんな軽い人ではないよ。雰囲気だけでは駄目だよ」
「自分は雰囲気で何人もの女の子と夜を明かしたというのに?」
吹雪は言葉に詰まった。
「そ、それはどうでもいい……あんまり好きじゃなかったから」
とても酷いことを吐かされている!そう思っても吹雪は嘘をつけなかった。照美の瞳がわき目も振らずにじっとこちらを見てくるのだ。
「じゃあ僕の事は好きだってこと?」
「ち、違う……君は大事な人で、昔のチームメイトで……」
照美は再び吹雪の唇を奪った。悔しいけれど、僕よりうまい。もっと欲しくなるタイミングで唇を離すから。
「本当?」
「すき…」
照美はご褒美のようにもう一度キスをした。満たされていく思いだ。ああ、これもまた砂だろうか、それとも砂糖となって甘いまま心にべっとりとついてくれるだろうか。
夜は静かに始まっていく。




20151109




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