彼氏待ちの空模様【蘭マサ】



この世が終わるのかと思うような赤い雲が空を覆い尽くしている。すれ違う人々は浴衣だったり、制服のままだったり、お揃いのTシャツきた人たちもいた。いつもより人が多く行き交う駅前で自分と同じように、携帯電話で時間を確認したり、ちらちらと周りを確認したり、壁にもたれて眠っているような素振りを見せる者もいた。街全体が落ち着きがない。どこにいてもじっとしていられなさそうだ。なにかしなきゃとせかされる気分である。

「じゃあ六時に駅前な」
部活の終わりに霧野が狩屋にそう伝えた。なんのことかときく時間も与えず、神童と共にさっさと帰ってしまった。狩屋は一応メールしたところ、夏祭りに一緒にいくことになっていたらしい。霧野の頭の中で。何故か。
本当に勝手気ままだと思う。自分も相当やりたい放題言いたい放題してきたが(ほぼ霧野に対してだけど)、センパイの方がもっとそうじゃないのかと疑った。
「で、それに喜んでしまう自分の空しさといったら……」
狩屋は自分にため息した。適当な返信を霧野にして、狩屋は左胸に手を当てる。心臓がうるさい。顔もにやけて戻らない。階段を下りる時も3段飛ばしてジャンプしてしまう。

―――その状態で今、ここにいる。
一回家に戻って、瞳子にお金をもらい夏祭りにいくことを話すと頬をほころばせて了承してくれた。
約束の時間まであと15分、狩屋は周りを見渡したがまだ霧野はきていない。狩屋は暇だなあと、周りをみて目線の先の店の前にいるカップルに目がいく。
男の人が浴衣を着て、女の人は私服、しかもかなりボーイッシュである。男の人は髪が長く、中性的なかなり綺麗な顔立ちでどこかの有名モデルではないかとミーハー心がざわつく。女の人は本当にどこにでもいそうな感じである。どうやって知りあったのだろう。
女の人が男の人の手を引くと、男の人が照れている。一方女の人は、全く気に素振りもみせずにずんずんと引っ張り、狩屋の方へと向かってくる。
まさか見ていたことがばれたか!?と思うと、思いっきり目を逸らしたが普通にスル―していった。
「お前は目立つからこんな恰好してこないでよ!恥ずかしい!」
「えーなんで?いいじゃん、似合ってるんだしー」
声をきいて二人が去った方向を2度見した。

「あーあれ、女子同士だね」
「え……ってええ!?あ、てかセンパイいつの間に!?」
狩屋が振り返ると霧野がすぐ後ろに立っていた。びっくりして声が裏返った。そして着ている服にも驚いた。さっきの男の人と同じ浴衣姿で、こっちも負けず劣らず似合っている。悔しいけど、クセになりそうだ。自分より背が高いのが気に食わないけど!

「ずっとお前をみていたさ」
霧野はクスッと吹きだした。
「なのにお前全然こっちみないんだもん」
「だってこの短時間でセンパイが浴衣になるなんて思ってなかったし!」
「いやー母ちゃんがうるさくってさ。彼女と行くと言ったら着てけ着てけってさ。待たせて悪かったな」
けらけらと笑いながら霧野はいうが、狩屋は一気にひやりと背筋に冷たい水をかけられてそれから芯から湧き上がる熱が体中を駆け巡った。
この人、今何て言った?
固まっている狩屋の顔を霧野は頭を傾げて、様子をうかがう。
「だ、」
「だ?」
さらに傾げる。体中を駆け巡った熱が違う意味で沸騰した。
「誰が彼女だよ!!!一体いつオレが!!」
つい大きな声を出すと周囲の人がこちらを見てくる。狩屋はうっと口を手で押さえた。こちらをみていた目はすぐにそれぞれ違う方へと向いた。
真っ赤かの狩屋をみて、頭をポンとする。
「悪かった。冗談だよ、そうでもしないと小遣い弾んでもらえなかったから」
チャリと袖に入っているのか小銭の音を鳴らす。そういうのは巾着とかにいれるものではないのかと突っ込みたくなるが、そこら辺は適当なのが霧野らしい。
「んじゃ、隣町の夏祭り、行くとするか」
霧野が自然の動作のように狩屋の手を取る。狩屋はすぐに振り払った。さっきにみたカップルが鮮烈に甦る。完全に真っ赤な方はオレだ。
「行きますよ、センパイ」
「なににそんな頑ななんだか」
と霧野はずんずん前を行く狩屋の後を追いかけた。
空を覆ったこの世の終わりはもうどこかへ消え、灰色と青が混ざり合い騒がしくなる前の準備段階へと入る。
祭りはこれからはじまる。



蘭マサワンライ「おまつり」
20150715




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